トランプ次期米大統領が政権1期目の戦略を踏襲するのであれば、米国の主要貿易相手国に関税を課すというトランプ氏の脅しは交渉の終わりではなく始まりとなる。

トランプ氏はソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、移民や違法薬物の流入を理由にカナダとメキシコからの輸入品に25%の関税、中国からの輸入品に10%の追加関税を課すと発表した。この3カ国は米国の貿易全体の約40%を占める。

この発表はトランプ政権1期目で相次いだ脅し文句と似通っている。トランプ氏は2019年5月、メキシコが米南部国境での移民流入を阻止しなければ、10日以内に5%の関税を課し、徐々に引き上げていくとソーシャルメディアに投稿した。メキシコはこれに従い、関税は課されなかった。

現在の貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」締結の際に交渉に関与したメキシコのフアン・カルロス・ベイカー元経済省通商担当次官は「非常に既視感を抱いている」と述べる。

ベイカー氏は、トランプ政権1期目の貿易相手国は「何かしらを学んだ。そして、その経験は役に立つ」としながらも、「しかし、『トランプ1.0』を経験したからといって、何が起きるのか、どう対応すべきかを正確に把握していると決めつけるのは危険だ」と警告した。

今回の課題の一つは、トランプ氏の就任がまだ2カ月近く先ということだ。自国の経済にダメージが及ぶことも含め、トランプ氏がどこまで踏み込むつもりなのかは未知数となっている。

コンサルタント会社オリバー・ワイマンのパートナー、ダニエル・タネンバウム氏は26日、ブルームバーグラジオの番組「サーベイランス」で「政権に就く2カ月前のこうした発表は交渉を開始する準備ができていることを明確に示している」と指摘。「新政権チームが発足後に実際に何をするのかを見守る必要がある」と話した。

トランプ政権2期目では大きな相違点が二つある。

一つ目はトランプ氏が権力を用いる手段についてより熟知している点だ。非公開情報として匿名を条件に事情に詳しい関係者が話したところによると、トランプ氏は今回、国際緊急経済権限法(IEEPA)を利用する計画で、非常事態宣言を出した上で関税を迅速に課すという。1期目では調査などで関税賦課に約1年を要していた。

法律事務所トンプソン・ハインで北米と中国の貿易問題に取り組んできた上級顧問、ダン・ウッツォ氏は「テンポは速いだろう」とし、25日夜に発表された関税は「戦術的かつ取引的」で「狙った結果を達成するために設計されている」と分析した。

二つ目はトランプ政権1期目で財務長官を務めたスティーブン・ムニューシン氏や国家経済会議(NEC)委員長だったゲーリー・コーン氏、元国務長官のレックス・ティラーソン氏など市場に友好的な人物が姿を消したことだ。

最近発表された第2次トランプ政権の閣僚人事の大半を見る限り、最も重要な特質はトランプ氏および同氏の体制批判スタンスへの忠誠心と見受けられる。

もっとも、次期財務長官に指名されたスコット・ベッセント氏は例外かもしれない。ヘッジファンド運用会社を率いる同氏は貿易制限の実施について段階的なアプローチを呼び掛けており、関税の正確な規模について交渉することにオープンとみられている。

原題:Trump’s Opening Salvo on Tariffs Revisits First-Term Playbook(抜粋)

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