(ブルームバーグ):トランプ米大統領が財政赤字を抑え込むために打ち出した最も具体的な措置である大規模な関税引き上げが、法的に覆されるリスクに直面している。米国の財政基盤が一段と不安定になりかねない。
トランプ氏とベッセント財務長官ら政権幹部は、共和党による減税、規制緩和、企業や海外からの大型投資が経済成長を押し上げて歳入を増やすことで、今後数年で連邦政府の借り入れ需要が縮小すると主張している。
多くのエコノミストはこうした見通しに懐疑的だが、関税引き上げが実際に財務省に新たな資金流入をもたらしている点については異論が少ない。

米財務省が12日発表した統計によると、2025会計年度(24年10月-25年9月)の米関税収入は1カ月を残した時点で1650億ドル(約24兆4000億円)に達した。前年度からおよそ950億ドル増加したことになる。
増加分の大半は、トランプ氏が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて発動した関税によるものだと、ブルームバーグ・エコノミクスの分析は示している。しかし、8月29日の連邦控訴裁判所判決は、この措置の合法性に疑義を投げかけた。
トランプ氏は最高裁に上告しているが、有利な判断が示されなければ、政府が巨額の資金を返還する必要が生じる可能性があるとベッセント氏は警告している。同氏は最高裁がホワイトハウスの主張を支持すると確信を示している。

関税収入は年間ベースで3000億ドル以上に上るとベッセント財務長官は予測しおり、これは米国内総生産(GDP)の実質1%に相当する。
この水準の収入は、GDP比6%を超える財政赤字を10年間で3%程度に減らすというベッセント氏の目標に寄与するはずだ。それが失われれば、米国の借り入れ需要を和らげる根拠は、経済成長や生産性向上への期待だけなると債券投資家やエコノミストはみている。
ライトソンICAPのチーフエコノミスト、ルー・クランドール氏は「裁判で財務省側が敗れた場合、赤字拡大を望まない政権は何らかの政策対応を取るだろうが、それが何かは分からない」と語った。
不透明感は企業や経済全体のコストを重くするだろう。景気減速や労働市場の軟化が進めば歳出増と歳入減を招き、財政赤字を一段と拡大させかねない。

エール・バジェット・ラボの推計によると、問題となっているIEEPAに基づく関税が無効と判断されれば、今後10年間で約1兆5000億ドルの歳入が失われ、残る関税収入は4960億ドルにとどまる見込みだ。
多くのエコノミストは長期的に米国の関税収入が従来想定を大きく上回るとみているものの、最高裁が一部関税を無効とし、大規模な返還を命じれば、債券投資家に米財政全体の進路を改めて意識させるリスクがある。
関税は借り入れ増の抑制要因と受け止められている。S&Pグローバル・レーティングは先月、米国のソブリン格付けAA+を維持した際、新たな関税収入の推移を考慮に入れたと明らかにした。
ジェナディー・ゴールドバーグ氏らTDセキュリティーズのストラテジストは今月のリポートで「市場は、多額の関税返還が財務省の財政を圧迫する可能性に神経質になるかもしれない。特に、関税収入が長期的な米政府債務の改善につながると複数の格付け会社が最近指摘していることを踏まえればなおさらだ」と記した。
原題:Tariffs Face Legal Threat That Puts Trump’s Deficit Plan at Risk(抜粋)
--取材協力:Enda Curran、Jarrell Dillard、Sophie Butcher.もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp
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