データセンターからの電力需要急増と、それに対応するための発電施設増設の必要性は、結局のところ気候にプラスの影響をもたらす。エネルギー大手数社の幹部がここ1カ月間、こうした常識に反するような主張を展開している。

世界最大の油田サービスプロバイダー、SLBの新エネルギー担当上級副社長カム・ホージー氏は電力需要急増について、エネルギー転換が望み得る「最高の恵み」だと述べた。

天然ガス発電所向け設備の製造・供給で世界最大手のGEベルノバのスコット・ストラジック最高経営責任者(CEO)もこうした需要傾向は「ネットベースで脱炭素化」になると指摘した。

しかし、これら企業は化石燃料で利益を得ているため、気候変動対策推進派から即座に反論が寄せられた。環境保護団体シエラクラブの脱炭素キャンペーン・ディレクター、ローリー・ウィリアムズ氏はこうした動きはむしろ「脱炭素化にとって大きな脅威だとわれわれはみている」と述べた。

議論の中心にあるのは、今後数年間で加速すると予想される米国の新たな電力需要だ。エネルギーコンサルティング会社ウッド・マッケンジーによると、向こう5年間の需要の伸び率は地域によって15%に達し、第二次世界大戦以来見られなかった予想外の電力消費ブームとなる見込み。経済の電化と新工場建設、人工知能(AI)を支えるデータセンターの増加が電力消費を後押しする見通しだとした。

電力需要の増加に伴い、一部の石炭火力発電所の廃止が既に延期され、天然ガス発電所増設の大規模計画が始まっている。

シエラクラブのウィリアムズ氏は「できるだけ速やかに電力を必要としていると言うだけでは、化石燃料電力の送電網のさらなる拡充につながることになる」と指摘した。

しかしエネルギー企業の幹部らは需要拡大が米送電網の改革に必要な圧力と財務上のインセンティブの双方を提供すると主張する。

SLBのホージー氏は「それがゼロサムゲームから成長ストーリーへの転換をもたらす。成長は投資に等しい」と9月下旬のニューヨーク市気候週間中に開催されたブルームバーグNEF(BNEF)のイベントで語った。

実際、BNEFのデータによると、米国の最大の発電源はなお天然ガスであるものの、毎年新たに追加される発電量は天然ガスより太陽光・風力の方がはるかに多い。

GEベルノバのストラジック氏は電力需要増が米国のエネルギーシステム全体を再構築する機会を生み出すだろうと述べ、「これは新しい技術を加速させる大きなチャンスをもたらす。市場が停滞していると、そのような投資は難しい」と23日のインタビューで説明した。

GEベルノバは小型モジュール炉や二酸化炭素回収、水素ガスタービン発電の開発に資金を投じているが、これは需要拡大がなければ正当化が難しい。

公益事業の経営陣も同意見だ。PG&Eのパティ・ポッペCEOは「クリーンエネルギーへの移行を可能にする電力需要の増加はあり得る」と、9月にアナハイムで開催されたクリーンエネルギー関連イベントでのインタビューで語った。

またテクノロジー企業は二酸化炭素排出量を実質ゼロにするという気候変動目標を掲げており、データセンターではクリーンエネルギーを優先的に使用している。アマゾン・ドット・コムとマイクロソフト、アルファベット傘下グーグルはカーボンフリー電力による事業運営を目指し、原発・原子炉からの電力購入を最近発表した。

テキサス大学オースティン校のマイケル・ウェバー教授も、例えば自動車の電動化は、発電所が化石燃料を使用している場合でもなお環境にとってプラス面の方が大きいと指摘する。大型発電所がガソリンエンジンよりも効率的に稼働するためだ。また電力需要拡大により、短期的には環境を汚染する石炭火力発電所や天然ガス発電所の寿命は延びるが、長期的には炭素排出型の発電所が閉鎖されやすくなると分析。

「たとえ数年間は環境汚染が悪化するように感じても、排出量という観点では結局のところ、われわれにプラスに働く」と同教授は語った。

原題:AI Power Demand Might Actually Turn Out to Be Good for Climate(抜粋)

--取材協力:Mark Chediak.

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.