日本銀行の植田和男総裁は2日、米国経済の先行き不透明感や市場の不安定な状況を「極めて高い緊張感を持って注視」し、経済・物価の見通しなどに与える影響を見極める考えを示した。都内で行われた全国証券大会であいさつした。

その上で、「2%の物価安定の目標のもとで、その持続的・安定的な実現という観点から、経済・物価・金融情勢に応じて適切に金融政策を運営していく」と語った。

植田総裁の発言は、デフレ完全脱却を最優先課題に掲げる石破茂首相と赤沢亮正経済再生担当相が早期の利上げに慎重姿勢を示したことを受け、日銀も同じ方向を見据えていることを示したものとみられる。あいさつは9月の決定会合の声明文をほぼ踏襲した内容だが、「ハト派的」な表現が幾つか追加されており、今月末に開催される次回会合で日銀が政策金利を据え置くとの見方が強まる可能性がある。

SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストらは2日付のリポートで、「石破首相と赤沢経済再生担当相の発言は、日本銀行の早期追加利上げに対して明らかにネガティブと言える」と指摘。「衆議院議員選挙直後の10月末の金融政策決定会合における利上げは論外だろう」との見方を示した。

植田総裁はリスク要因として海外経済・物価動向、資源価格の動向など、日本の経済・物価を巡る不確実性は引き続き高いとし、「金融・為替市場の動向や、その経済・物価への影響を、十分注視する必要がある」と発言。企業の価格設定行動が積極化する中で、「為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面がある」との見解も示した。

石破首相は1日の就任会見で、デフレ脱却の実現に向けて金融緩和の基本的な基調は維持されるべきだとの考えを表明した。一方、経済運営を担う赤沢再生相は金融政策の正常化を慎重に進めるよう要請。2日の記者会見では、石破首相が日銀による「金利引き上げに前向きだと言われるのは、全体の絵として必ずしも正しくない」との発言していた。

植田総裁は2日夕、官邸で石破首相と会談。金融経済情勢について意見交換し、政府・日銀が緊密に連携することで一致した。

金融経済情勢巡り意見交換、緊密連携で一致-石破首相と植田総裁が会談

その他の植田総裁の発言

  • 景気は、一部に弱めの動きもみられるが、緩やかに回復している
  • 先行きは、海外経済が緩やかな成長を続ける下での緩和的な金融環境などを背景に、潜在成長率を上回る成長を続ける
  • 消費者物価の基調的な上昇率は、徐々に高まっていくと想定
  • 「展望リポート」の見通し期間後半には2%の「物価安定の目標」とおおむね整合的な水準で推移する

日銀は先行きの金融政策運営について、経済・物価が日銀の見通しに沿って推移すれば利上げを続ける方針を示しているが、足元では米中など世界経済の先行き不透明感の強まりや、それに伴う金融市場の動向に警戒感を強めている。植田総裁は政策判断に「時間的な余裕はある」と説明しており、市場の早期利上げ観測は後退しつつある。

(詳細を追加して更新します)

--取材協力:氏兼敬子、藤岡徹.

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