15日の日本市場は米国の利下げ期待に日本の実質国内総生産(GDP)上振れが加わり、株価が4日連続で上昇した。日経平均株価は前日の東証株価指数(TOPIX)に続き月初の急落からの半値戻しを一時達成した。

パウエル米FRB議長

7月の米消費者物価指数(CPI)はコア指数の前年比の伸びが連続で鈍化、9月利下げの論拠を支えた。日本でも4ー6月期GDPが予想超の伸びで日本銀行の金融正常化に追い風となった。日経平均株価は7月11日高値から歴史的下落の5日安値までの下げの半値を一時埋めた。長期金利は上昇(債券価格は下落)、為替は1ドル=147円台前半で推移している。

恐怖指数として知られるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティー指数(VIX)は月初の急騰前の水準まで下がっている。パニック状態後退とともに米利下げも幅は縮小するとの声が強まっている。日本の3市場もお盆期間を含めて値幅的に落ち着き始めている。岸田文雄首相の退陣表明はポジティブとの見方も出始めた。

みずほ証券の片木亮介マーケットエコノミストは米CPIについて、米連邦準備制度理事会(FRB)の9月利下げ開始に「十分『合格点』」と15日付リポートに記した。同時に利下げ幅の50ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)については「やや後退」とした。

首相退陣については大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリスト兼テーマリサーチ担当が、次期政権への期待感が高まるとして、辞意表明から総裁選まで日経平均は堅調な傾向があるとリポートで指摘した。

株式

東京株式相場は4営業日続伸。7月4日までの5日続伸に続く連続の値上がりになった。米CPIがインフレ鈍化を示して利下げ期待を支えた上、日本のGDPも予想を上回った。米国市場では金融株やエネルギー株が高く、国内市場でも物色の対象になった。

米国の金利低下は通常、銀行に打撃を与える傾向があるが、銀行株は月初から戻り歩調にあり上昇率トップとなった。TOPIX上昇に最も寄与したのも銀行株で、自動車を含む輸送用機器が続いた。

岡三証券の大下莉奈シニアストラテジストは、年初からの日本株買いの背景の一つであった景況感改善や賃上げに伴う個人消費などがGDPで好調だった点は、相場の支えとみている。加えて、外部環境の落ち着きで個別企業の業績を軸にした選別物色が一段と強まっていきそうと述べた。

 

債券

中長期債を中心に下落。GDPが予想を上回ったことを受けて売りが優勢だ。米CPIが予想通りの結果となり、9月の大幅利下げ観測がやや後退したことも売り材料になっている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鶴田啓介シニア債券ストラテジストは、GDPは個人消費が想定したより良かったと指摘。「日銀の利上げシナリオはつぶれておらず、今後も利上げがあり得ることを示す結果」であり、債券相場の重しになっていると語る。

日銀は定例オペで国債買い入れを通知。対象は残存期間1年超3年以下、5年超10年以下、10年超25年以下、25年超で、1年超3年以下の応札倍率が4.12倍と前回(2.82倍)から大きく上昇した。鶴田氏は「需給の緩みを示唆する結果で、午後にかけて売りにつながった可能性がある」と言う。

日銀の国債買い入れの銘柄一覧(15日オペ)

三菱UFJアセットマネジメントの小口正之エグゼクティブ・ファンドマネジャーは、このところ国債入札が低調でも相場が戻す展開が続いて下値が切り上がっており、「買わないといけない投資家の背中を後押している」と指摘。岸田首相の退陣表明が日銀の利上げ路線に及ぼす影響も不透明なため、債券相場は目先はしっかりした展開になるとみているとした。

新発国債利回り(午後3時時点)

 

為替

東京外国為替市場の円相場は1ドル=147円台前半で推移。米国で9月の利下げ幅を見極める状況が続く中、午前は日本株高による投資家心理の改善から円売りがやや優勢だったが、午後は持ち高調整で円を買い戻す動きが出た。

朝方は4-6月期GDPが予想を上回るプラス成長となり円が上昇する場面も見られたが、日銀の追加利上げ期待は後ずれしており、相場への影響は限られた。

みずほ銀行金融市場部グローバル為替トレーディングチームの南英明ディレクターは「ドルは米CPI発表後の上値の重さを嫌気した売りが出た」と指摘。円キャリー取引の巻き戻しが一巡する中で「米金融政策の転換にドル売りが追いついていない印象がある」と述べた。

大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジストは「9月の米利下げが25bpなのか50bpなのかは来月発表の米雇用統計まで決着がつかないかもしれない」と述べ、株価動向を見ながら方向感の乏しい相場が続くと指摘。7日の内田真一日銀副総裁の発言を受けて「追加利上げは早くて12月が市場コンセンサスになっており、4ー6月GDPが金融政策に与える影響は限られる」との見方を示した。

 

--取材協力:酒井大輔.

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