シリコンバレー
トランプ氏は大統領在任中とその後、米テクノロジー業界を頻繁に標的にした。大半の期間にわたり、フェイスブックやグーグルといった企業に対する不満のはけ口として同氏が選んだプラットフォームはツイッター(現X)だった。イーロン・マスク氏による買収前のツイッター自体も標的となった。
トランプ氏は2020年、1996年通信品位法230条に基づくソーシャルメディアプラットフォームの法的保護を縮小する大統領令に署名。政府はアマゾンやアップル、フェイスブック、グーグルに対する反トラスト法(独占禁止法)調査を開始し、バイデン政権下でもそうした動きが継続・拡大している。
巨大テクノロジー企業に対するトランプ氏の攻撃は、必ずしも政策や主義主張を厳格に反映したものではない。同氏の関税案と同様、少なくとも企業やCEOが応じざるを得ない交渉上のポジションを確保するためのてこのような役割を果たしてきた。
かつてトランプ氏ら共和党員が訴えていた不満の中心は、テクノロジー企業が保守派に偏見を持っており、保守派に対しシャドーバンやデプラットフォームを行い、検索結果で右寄りの情報源を抑え込んでいる(とされる)ことだった。現在、トランプ氏はより広くアピールする問題に焦点を合わせている。「テック企業はあまりにも巨大になり、力を持ち過ぎており、特に若者たちに深刻な悪影響を与えている」と同氏は主張している。
こうした姿勢は、テレビドラマがいかに世論を形成し得るかについてのトランプの理解から生じているかもしれない。ザッカーバーグ氏は2月、上院で開かれたテクノロジー企業幹部の公聴会で、ソーシャルメディアの乱用が子どもを自殺に追い込んだと批判され、家族への謝罪を求められた。トランプ氏はこれを選挙キャンペーンに利用し、ソーシャルメディア企業に「若者をだめにしてほしくない。自殺者まで出ている。何が起きているかは明白だ」と語った。
しかし、しばらくすると、トランプ氏は中国のテクノロジー覇権に対する重要な防波堤として、同じプラットフォームの多くを擁護している。トランプ氏が望んでいるのは、そうした米企業に対し優位に立つことで、外国の競争相手がそれらに取って代わることではない。同氏は自らがバッシングしていた企業について、「非常に尊重している。猛然と追及すれば、損なわれるかもしれない。破壊は望んでいない」と述べた。
米テック企業に害を与えたくない、外国企業よりも国内企業を優遇したいというトランプ氏の主張の唯一の例外が、中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」だ。トランプ氏は最近、このプラットフォームで投稿デビューし、既にかなりの人気を得ている。米国でこれを禁止することは、自身が報いたいと考えていない企業と経営トップを利することになると同氏は指摘した。
トランプ氏は「今の考えでは、TikTokを支持している。われわれには競争が必要だからだ。TikTokがなければ、フェイスブックとインスタグラムが使われることになる」と説明。それは同氏にとって受け入れがたい事態だ。同氏は、21年1月6日の連邦議事堂襲撃事件を受けてフェイスブックが同氏のアカウントを凍結する決定を下したことになおも根に持っている。
仮想通貨
トランプ氏は、暗号資産(仮想通貨)に対しても同様のダイナミクスで態度を一変させている。つい最近まで「詐欺」や「大惨事が待ち受けている」として、ビットコインを批判していたが、今やすべての仮想通貨は「MADE IN THE USA!!!(米国産)」にすべきだと主張。自身の方針転換を政策的な必須事項だと位置付け、「われわれがやらなければ、中国がその方法を見つけ出すだろう。中国が握るか、それ以外の国かだ」との見解を示した。
仮想通貨業界は、潤沢な資金流入に恵まれながらも、民主党からは毛嫌いされる傾向にあり、必然的にワシントンとのつながりを求めてトランプ氏に歩み寄る道を見いだしている。
仮想通貨投資会社パラダイムのポリシーディレクター、ジャスティン・スローター氏は、「米証券取引委員会(SEC)による規制措置が大きく影響し、バイデン政権はアンチ仮想通貨色が前面に出てしまっている」と指摘。「調査によれば、仮想通貨を保有する民主党員は約20%で、比較的若年層と非白人による保有が高いことを考慮すると、これは政治的に賢明なことではない」と分析する。
トランプ氏は、政権と仮想通貨業界との溝を埋めるために動き出しており、5月に行ったスピーチでは、「仮想通貨の破滅を招くジョー・バイデンの改革を阻止する」と宣言。その翌月にはマールアラーゴで開いたビットコインのマイニング(採掘)企業数社との資金集めイベントで成果を挙げている。トランプ陣営は現在、仮想通貨での政治献金を受け付けている。