◆日本語版翻訳者の惚れ込みよう

第1作の「風の影」、言葉があまりに面白くて、世界も深いので、何度も読んだんですが、4作目の完結版を読んだ時には、全体像があまりに広くて「これは、世界文学に残る」とはっきり思いました。もう一度、木村さんのお話を聞いてみてください。
木村:「忘れられた本の墓場」は、バルセロナの一角のどこかにあるんだけど、でも実は私達の心の中にもものすごく大きな「忘れられた本の墓場」があって、ちょっとほこりをかぶった本を取り出して読んでみる。
木村:つまり、子供の時に読んですごく感動した本を、ある程度年をとってから読み直すと、「あ、そうか……あの時には見えなかったけど、これはこういうことだったのか」みたいな。本って、そういう魅力がありますよね。何度読み返してもそのたびに新鮮なものがある。
木村:その度に見えるものが違ってくる、というのがやっぱり素晴らしい本。サフォンの本はもう、まさにそうなんだけど、そういう本にその出会えることの幸せというのもありますよね。
神戸:僕は、「サフォンの本に会ってよかった」と本当に思っているんです。
木村:私も、本当にそう。そうです…。もう全くその通り。よく彼がここまで書いてくれたな、と思って……。
神戸:木村さん、泣かないでくださいね。
木村:泣きそう! 泣きそうです、本当に…。
4作品それぞれ書き方も違いますが、出てくる人が少しずつ重なり、そして「忘れられた本の墓場」が登場。そこに10歳程度の子供が行って、本を1冊持ち帰ると、そこからまた話が展開をしていく。およそ90年にわたるお話です。
だまされたと思って、まず1冊目の「風の影」上・下巻を読んでみてください。集英社文庫から出ています。読んだら、多分続きを読みたくなると思います。私は、死ぬまでに何度も読み返したいと思っています。読み返すたびに、本の「別の顔」が見えるんです。この深い小説は。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。







