「奥さんも生きたかったはずです」解決策を模索せず短絡的な犯行

12月26日午後3時から長崎地裁で開かれた判決公判。太田寅彦裁判長が判決文を読み上げた。

「主文、被告人を懲役8年の刑に処す」

車いすに座り、右の耳に補聴器をつけた75歳の男は、静かに聞いていた。

太田裁判長は判決理由について、次のように述べた──

「年金生活で医療費がかかるなど経済的に苦しいなか、複数の持病があった妻が寝たきりとなり、自身も脳梗塞の疑いがあるなど健康的な問題もあった。
しかし殺人が重大犯罪であることを考えると、行政機関や、妻に反対されてでも親族らに相談し、支援を受ける余地はあった。
被告はこれらの問題解決について、熟慮せず、解決策も模索することもなく、現状を打開するため短絡的に妻を殺害しており、強い非難は免れない。

しかし、被告は高齢で認知機能の低下があったうえ、突然、困難な事態に直面して強いストレスにさらされ、適応障がいの状況に陥っている。さらに自身の脳梗塞の疑いなど健康面でも困難な状況があった。
自首をし、法廷で反省の言葉も述べていることなどの事情を考慮し、懲役8年に処することとした」

また弁護人が求めた《介護疲れを踏まえた量刑》については─
「本件は、長期的かつ献身的に配偶者を介護することに疲れ果てて犯したものではなく、予想外の困難に直面し、将来を悲観したことが殺害を決意した主たる動機となっている」としてそぐわないとした。

判決言い渡しのあと、最後に裁判員、裁判官からとして──

「亡くなった奥さんのことを今一度、思い出してください。
長年生活して、色々なことがあった夫婦関係を殺害と言う形で終わらせたことは決して許されるものではありません。
奥さんも生きたかったはずです。
人の命を奪ってしまったことを胸に刻んで欲しい。
奥さんのことを考え、償いの日々を一日一日無駄にせず、送って欲しい。
あなたは法廷で(自分のことを)「頭が良くない」「考えることができない」などと言っていましたが、そのように自分のことを卑下して「だから仕方ない」と正当化するのではなく、難しい場面や困難にも向き合い、しっかりと考え、周りの人に頼ることを諦めないでほしい」

この間、被告は裁判長をじっと見つめ、何度も頷いた。