バイト敬語「~のほう」に違和感を抱く人も
問題は、ただ、「こちらがコーヒーになります」「こちら、きつねうどんになります」のような言い方をしているのが、主に若者たちであり、彼らは「~になる」の本来の使い方をよく理解せずに、店の指導というより、「先輩やバイト仲間が使っているから」「最近よく耳にするから」といった単純な理由で使っていることです。

その意味では、しばしば不自然な日本語として話題になる、「レシートのほうはよろしかったでしょうか」「千円からお預かりします」と同じように、「コンビニ敬語」「ファミレス敬語」「バイト敬語」と呼ばれる類いのものとも言えるでしょう。
ちなみに、「レシートのほうはよろしかったでしょうか」「千円からお預かりします」のような「~のほう」「千円から」といった言い方については、言葉の専門家や一般の人からも指摘が多くあったためか、文化庁の「国語に関する世論調査」で1996年度以来3回の調査結果を見ると、「気になる」と答えた人の割合が増え続けていて、バイト敬語でもあまり聞かれなくなっているように思います。

一方、それらに比べると、「~になります」は徐々にその使用が増加しているように感じます。
陣内正敬著(1998)『日本語の現在(いま)』(アルク)で、関西の女子大生百人に「~です」「~でございます」「~になります」の三つの表現の印象を聞いた結果からは、「~です」は断定的で接客用語としてはやや丁寧さに欠ける。「~でございます」は丁寧すぎて若い人には使いにくい。その点、「~になります」は婉曲的で柔らかい感じがして、適度な丁寧さも持ち合わせていると若者に感じさせていることから、接客場面を中心に「~になります」敬語はこれからも使用を増やしていく可能性が高そうです。
加藤和夫:福井県生まれの言語学者。金沢大学名誉教授。北陸の方言について長年研究。MROラジオで、方言や日本語に関する様々な話題を発信している。(2023年5月8日MROラジオ あさダッシュ!内コーナー「ねたのたね」より再構成)