切っても切れない2人の恩師との絆

 鈴木さんには切っても切れない、2人の恩師との深い絆がある。

1人は内田隆幸さん。鈴木選手の素質を見出し、競歩を始めた辰口中学校2年から小松高校3年までの間、指導にあたってきた。

 鈴木さんが世界へと歩む礎となった場所がある。それが石川県能美市の「ブルーミングロード」。歩行者専用の舗装路で、周囲には田んぼが広がるのどかな光景が続く。春には沿道を桜並木が飾る住民の憩いの場にもなっているこの場所で、鈴木さんは内田さんとの二人三脚で、後に「世界一美しい歩型」と評されるフォームに磨きをかけた。

鈴木さんの練習拠点だった「ブルーミングロード」石川・能美市

  内田さんは当時を懐かしそうに振り返りながら、鈴木さんにエールを送る。

内田隆幸さん
「選手の気持ちを引き出すようにしていくと、いいものが出てくる。それが自分の仕事だぞと。自分が世界記録を作ったことは捨てて、その選手がいいものを持っていたら指導しなさいと言ってある。」

 
 そしてもう1人、鈴木さんを世界へと導いた指導者が今村文男さんだ。ナショナルチームのコーチも務め、社会人時代を中心に鈴木さんが所属した富士通陸上競技部で、世界で戦うためのあらゆるノウハウを余すことなく叩き込んだ。

 その2人が今年3月、能美市で開かれた鈴木さんの現役引退セレモニーで顔を揃えた。今村さんは、コーチとして鈴木さんと共に歩んだ日々をこう振り返った。それは、鈴木さんの指導者としての道を照らす言葉かもしれない。


今村文男さん
「共に伴走しながら、どっちが上、どっちが下という関係ではなく、共に同じ大きな大会を目標にしながら、そこに向けて伴走者としてアクセルをかける時と、ブレーキという役割をすごく意識して共に戦ってきた。」