被災者の「口の健康」を守った歯科医師、「当時のことは、はっきり思い出せない部分も」

町野町で開業して42年、地域に親しまれていた「広江歯科」は、家屋と診療所が全壊し、避難生活を余儀なくされました。

一見無事に見えるが、全壊判定の歯科医院 提供:広江歯科医院院長

21日間に及ぶ避難所生活では、町野町ならではの助け合いを感じ、自分もなにかしなくてはと、いわい歯科クリニックの岩井先生とともに「お口の体操」や口腔ケアグッズコーナーを設けて「1日1回のブクブクうがいの励行」などの口腔ケアに取り組み、発災4日目からは訪問用機材を使い、義歯修理などを行っていました。

断水によって水がなく、飲み水にすら困る状況でしたが、マウスウォッシュを一口分だけ含み、小さな紙カップに吐き出し、それをティッシュで吸い取ってコップを使い回す――という工夫をしながら、口腔ケアを呼びかけました。

避難所では、エコノミークラス症候群を予防するため、JAのスタッフの方や有志の方がラジオ体操を行ってくださり、「お口の体操」もそれに続けて実施されました。

断水時でも、できる限りの口腔ケアを続けることで誤嚥性肺炎の予防に繋がればという思いがあったそうです。

当時のことをお聞きしましたが、「はっきりと思い出せない部分も多くあり、21日間風呂にも入らず、なにをしていたのだろう」と振り返っていらっしゃいました。

今は再建を目指して広域避難を続けています。二次避難が呼びかけられていた1月、「必ず能登に戻すから」という言葉を信じて、今の歩みは遅くとも再建の道を進んでいます。