800m出場に「メッセージ的なもの」が感じられた理由は?

1000mで日本新記録をマーク
■8本目 女子800m決勝(10日目18:35=日本時間25日10:35)
さすがに800m決勝の舞台に立つのは難しい。田中はおそらく、レースをスタンドから見ているだろう。来年の世界陸上ブダペスト大会では、オレゴンよりも800mの比重を高めるプランもあるからだ。最終的に1500mか5000mのメダルにつなげるためのアプローチだ。
日本を出発する前日の取材に、田中は次のように話していた。

「日本選手権の後に1000mに出場した(6月22日、日本新)のは、来年の世界陸上の800mを意識してのことでしたが、結果的に今年に生きることになりました。勝負できるかどうかという以上に、運が向いてきたというか、何かメッセージ的なものが感じられたので、受け取った方が良いと判断しました。結果的に全種目が中途半端になったとしても、オレゴンで3種目に出る経験があったから、と言える何かが将来的にあるのでは。そう思ったので3種目にエントリーしました」

中途半端に終わるかもしれない、と言ったのは、良い意味で逃げ道を作っておく目的がある。日本選手権で3種目に出場したときも、挑戦することの意味を強調する一方で、逃げ出したい気持ちを話していた。父親でもある田中コーチも、「やめてもいいんだよ」と言い続けていたのだ。3種目出場の心身へのダメージも十分理解した上での挑戦だから、より集中できて効果がある。

常識では考えられない挑戦も、次のステップにつなげるために段階を踏む意味で行っている。オレゴンの3種目出場も、田中にとってはイメージした範囲での冒険なのだ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)