前半の山場は1500m準決勝を通過できるかどうか
■1本目 女子1500m予選 (1日目18:10=日本時間16日10:10)昨年の東京五輪で田中が日本人として五輪初出場し、8位に入賞した種目。もちろん油断は禁物だが、通過する可能性が高い。世界陸上で日本選手がこの種目の予選を突破すれば史上初めてとなる。
■2本目 女子1500m準決勝(2日目19:05=日本時間17日11:05)
ここが前半の山場となる可能性がある。東京五輪は3分59秒19と日本人初の3分台で走って通過したが、今季のシーズンベストは4分06秒35である。東京五輪の準決勝通過の一番低いタイムは4分01秒69なので、今季のタイムを見ればかなり苦しい。
だが田中は昨年も、6月までの記録は4分08秒39だった。以前の川内優輝(35・AD損保)のように、毎週のようにレースに出場する強化スタイルで、国際大会で一気に記録を縮めることができるタイプなのだ。
6月の日本選手権では2年連続3種目に挑戦し、トータルで前年を上回る成績を残した。そのときに「世界陸上で世界のレースにしっかり乗って走れば自己新(日本新)を出せる」という手応えを持つことができた。
自身のベストレースを再現しようとすると苦しくなるが、世界陸上でも3種目に挑戦する新たな試みをすることで、今年も挑戦者として臨むことができる。そこが一番期待できる部分だろう。
■3本目 女子1500m決勝(4日目19:50=日本時間19日11:50)
準決勝を突破した12人で争われる。中1日空くが、それでもタフさがなければ走れない。その点は田中に有利に働く。
初めて中距離種目の世界の決勝を走るワクワク感は、東京五輪ほど大きくないかもしれないが、昨年との違いである「5000mと2種目で活躍する」というチャレンジャーのメンタルが田中の背中を押す。
準決勝さえ突破すれば、入賞まで手が届くのではないか。
後半の焦点は5000mの日本新と入賞

■4本目 女子5000m予選(6日目16:25=日本時間21日8:25)
中1日で出場する。19年の世界陸上ドーハでは15分04秒66の自己新で予選を突破したが、昨年の東京五輪(2組)は14分59秒93の自己新だったが通過できなかった。1組の廣中璃梨佳(21・JP日本郵政グループ)は着順では9位だったが、14分55秒87で予選を通過した。
東京五輪は4000m通過が遅く、ラストだけの争いになった。ドーハのときのように3000~4000mのペースを上げるのも1つの方法だが、今季の田中は間違いなくラストのスピードが上がっている。東京五輪のようにラスト1000mだけの勝負になっても勝ち抜けるだろう。
■5本目 女子800m予選(7日目17:10=日本時間22日9:10)
5000m予選の翌日に800m予選に出場する。距離が大きく違う2種目だが、田中なら問題なく走ることができる。その理由の1つに田中は瞬発的なスピードではなく、持久的なスピードで800mを走り切るからだ。
日本選手権では200m通過時点でトップから15m引き離されていた。田中はトップを走る選手との差は見ずに、200m毎を31秒弱のペースで走ることに注力していた。その結果、最後は優勝者に惜しくも届かなかったが、0.27秒差の2位まで浮上した。この走り方だから5000mにも相乗効果がある。
東京五輪の予選を着順で通過した選手で最も遅いタイムは2分02秒05。プラス(着順で通過できなかった選手の中のタイム上位)で通過した選手の最も遅いタイムは2分01秒16。田中の自己記録は2分02秒36なので、自己記録を更新する力が残っていれば可能性はある。
スピードのキレで走る選手だと疲労があったら走れないが、田中のようなタイプは多少の疲労があっても400m毎を60秒、61秒で押して行く走りができる。
女子800mへの日本選手出場は世界陸上では3回目。予選を通過すればこれも史上初めてだ。
■6本目 女子800m準決勝(8日目18:35=日本時間23日10:35)
800m準決勝まで進んでいれば、今大会初めて3日連続のレースになる。疲労の大きさ次第では翌日の5000m決勝に備えて棄権する選択肢もあるだろう。だが田中なら、5000m決勝に向けての刺激に位置付けてしまうかもしれない。
東京五輪で決勝に進んだ着順通過選手の最低タイムは1分59秒77で、プラス通過選手の最低タイムは1分59秒28。さすがに、今の田中では通過するのは難しい。
■7本目 女子5000m決勝(9日目18:25=日本時間24日10:25)
入賞と日本新が目標になる。東京五輪では廣中が14分52秒84の日本新で走って9位だった。ただ、8位選手は14分46秒49である。日本記録を少し更新するくらいの力では入賞できない。
しかし日本選手権の田中は800m決勝から約70分後の5000mで廣中に勝ち、15分05秒61で走った。「今年度で一番良いレースができました」と手応えも感じられた。何より東京五輪でできなかったこと、つまり5000mで世界と戦うことに対し田中の気持ちが向かっている。
常識にとらわれないメンタルを持ち、常識にとらわれない強化スタイルを貫いてきた田中なら、日本記録の大幅更新も不可能ではない。