
世界陸上は楽しめましたか?
北口選手:
すごく楽しく試合ができたと思います。
石井アナ:
コーチにもメダルをかけられていましたね。
北口選手:
チェコ人が日本人に教えることは難しいことだと思いますし、ずっと自分の事をかなり優先して見てくれたように感じていたので、感謝の気持ちを込めてメダルをかけました。
北口の飛躍に、シェケラックコーチの存在は欠かせない。
2019年、やり投大国のチェコに単身で渡って以来、ずっと指導を受けている。

しかし、その時カメラに映ったのはトレードマークの笑顔ではなく、怒ったような表情で恩師・シェケラックコーチに詰め寄る北口の姿だった。
北口選手:
1~3投目の時に、毎回ずっと「集中しろ」と言われたんですけど「この場にいて集中してない人なんていないよ」「ここで集中してなかったらどこで集中するんだよ」みたいな気持ちがこみ上げてきて「集中しろ以外になんか言葉下さい」って思って(笑)。

そのイライラはどうやっていい方向に向いていったんですか?
北口選手:
お菓子を持ち込んでいたので、お菓子を食べたりして自分のイライラに惑わされずに自分のペースでやっていけるように心がけていました。
4投目を61m27、5投目はファール(やりは55mを超えたあたり)となったがこの一投にメダル獲得へのヒントが隠されていた。

北口選手:
自分の中では指の部分が、上手くかからなかったなという失投だったので、それで55mを越えていったのはパワーがあることを証明してくれたと思っていたので。しっかり次はやりに力を加えることを意識しました。
失投の原因が分かっていたことで、プレッシャーのかかる中でも気持ちの整理はついていた。5位で迎えた6投目。ここから競技終了までの4分間、北口の感情はジェットコースターのように揺れ動いた。
北口選手:
最近の試合では6投目は強くないんですけど、高校時代は6投目に強かったので「自分は元々できる子だ」と思って(爆笑)。「6投目に追い込まれてもしっかり投げられる子だぞ」っていうのを言い聞かせて、ピットに立ちました。

実際、北口が2019年に日本記録の66m00をマークしたのも6投目だ。
最終6投目、観客の手拍子のなか放ったやりは、高く舞い上がり63m27をマーク。逆転で2位に浮上した。しかし、投げた直後の北口は頭を抱えうずくまった。
石井アナ:
投げた後、しゃがみ込みました。頭抱えましたよね?
北口選手:
ダメだと思ったんで・・・(笑)。だいぶやりが手前に落ちたように感じて「終わったな」と思って。モニターを見ても銅メダルのラインよりも手前に落ちているように私からは見えたので。「あっ、ダメだ」と思ってしゃがんでいました。そのあと順位が入れ替わった掲示板を見てから「え、なんか変わってるんだけど」みたいな(笑)。「え、上に伸びてるんだけど記録」みたいな、そんな感じでした(笑)。

悲しみから一転、大喜びでコーチの元へ走った北口。しかし笑顔はすぐさま辛そうな表情に変わった。残る投てき者は2人。まだ競技は終わっていなかった。

北口選手:
ここで終わりじゃないというのは自分の中でも分かっていたので。でも自分が喜ぶということでその場の選手に少しでもプレッシャーかけられたらいいなって思って。そんな子供じみた駆け引きが効くのかわからないですけど(笑)。他の選手に聞かないと、この駆け引きの結果は分からないですけど、勝負をするってことに関してはそういうことも必要だと思っているので。もちろん、残っているのが強い選手だというのは分かっていたので泣きながら待ってましたけど。
北口に続いて投げた地元・アメリカのK.ウィンガーは64m04のビッグスロー。この時、3位に後退した北口は不安からか悲しみの表情に。コーチも一緒にソワソワし始めていた。

北口選手:
ただただコーチに「見るな」って言われていて。私の中では(2019年の前回大会)ドーハの世界陸上で6cm差で予選落ちしたっていうのが・・・また神頼み、あとの人の結果を見て自分の結果が分かる状態だったので「もう見るな」って言われて。チラッとモニターは見てたけど(笑)。
残るは一人、この時点で63m25を投げ4位につけていた東京五輪の金メダリスト劉詩頴(中国)だった。
劉詩頴の6投目は50mラインを少し超えたところに突き刺さった。この瞬間、日本勢女子史上初、フィールド種目でのメダル獲得となった北口はシェケラックコーチと抱き合い、喜びを爆発させた。

北口選手:
信じられないというか、このメダルが日本女子フィールド種目史上初なので。そういった偉業を成し遂げられると思っていなかったので・・・。正直このタイミングだとは思っていなかったのでこの結果が得られてコーチも喜んでいましたし、これからも頑張っていこうとメッセージをくれたので私もその気持ちに応えたいですしチェコでも恩返しできる機会があればいいなと思っています。
競技後はウイニングランを楽しんだ。

北口選手:
ウイニングランはしたことなくてずっとしたいと思っていて夢みたいなものがあったので、
感謝の気持ちを込めてゆっくり歩きました。
ファンの心をつかんだ北口榛花の“喜怒哀楽”。全ての感情が表れた快挙のドラマに多くの人が心を奪われた。