一方でウクライナが希望していた、射程の長い重火器とミサイルを迎撃する防空システムがようやく戦地に届き始めている。射程80キロの高軌道ロケット砲システム『ハイマース』やワシントンの防衛にも使われる地対空ミサイルシステム『ナサムズ』に代表されるものだ。
いずれもアメリカが供与したハイテク兵器だ。これが配備されて以来、各所でウクライナ軍による効果的な攻撃が続いている。ノバカホフカの弾薬庫、メリトポリの空軍基地、スニジネの弾薬庫、マリウポリの軍事施設など、ウクライナ大統領府顧問は「この2週間でロシア軍の重要ポイント約20か所を破壊した」と発表している。ロシア軍が大量の弾薬によって“面の攻撃”を仕掛けるのに対し、ウクライナは限られた数の精巧な武器で“ピンポイントの攻撃”をしている。
東京大学先端科学研究センター 小泉悠 専任講師
「戦場の弾薬庫というのは決まった場所に建設されているわけではなく、弾薬の集積所みたいなものがあるんですね。それをうまいこと見つけて叩いている。それを果たしてウクライナ軍が自前で見つけているのか、アメリカに教えてもらっているのか、それは明らかにはならないでしょうが、ウクライナ軍だけで出来るとは思えませんね。で、これアメリカのある報道ですけど、最初に4両だけ『ハイマース』をもらってウクライナ軍が運用してみたところ、アメリカ国防省のある幹部が「君たち合格したよ」って言われたっていうんです。せっかくあげた『ハイマース』を無駄にすることなく巧く使ったから、もうちょっとあげるよってことでしょうか…」
■「電波を妨害してしまえばドローンは役に立たない」
今回のウクライナ侵攻当初、ロシア軍は“アナログ”といわれてきた。使われる武器は古く、兵士間の連絡も民間の無線や電話が使われてきた。ところが現在ロシアはもともと得意だとされていた“電子戦”を展開して優勢に立ってきているという。これは皮肉にもウクライナに各国から提供されたドローンが予想以上に活躍してきたことが原因だという。
防衛研究所 高橋杉雄 政策研究室長
「ドローンっていうのは撃墜するのが難しい。ただ、電波を妨害してしまえばドローンは役に立たないわけで、そういうことから電子戦が活発になってきている。このロシアがやってくる電子戦に対抗する装備をウクライナが用意できないととても不利になる」
英RUSI(英国王立防衛安全保障研究所)は報告書の中でウクライナ支援として西側が最優先すべき物のひとつとして『対レーダーシーカー』をあげている。『対レーダーシーカー』とは目標を探知・追尾する装置だ。これをドローンに取り付け、ドローンを無力化するために妨害電波を出す場所を先に検知し攻撃する。いわゆる“自爆ドローン”といわれるものでイスラエルではすでに実用化されている。ハーピーと呼ばれるドローンは自らを探知したその施設に急降下してそれ自体を標的に自爆する。


防衛研究所 高橋杉雄 政策研究室長
「戦争兵器はイタチごっこのくりかえし。新しい兵器使えば、それに対抗する兵器が出てくる。例えばイスラエルの自爆ドローンが妨害電波を目標にすると、今度は、妨害電波を出す車輛を2台にして交互に電波を出すとか、絶え間なくイタチごっこ…」
確かにどんな兵器もいつまでも無敵ということはない。だが、前線の具体的な武器、作戦とは関係なくプーチン大統領が不吉な発言をした。