カルスト地形の世界遺産は他にも…
こうしたカルスト地形の例として世界遺産になったものは、ヨーロッパにもあります。代表的なのがクロアチアの世界遺産「プリトヴィツェ湖群国立公園」。

こちらは湖が階段状に連なり、それを92の滝がつないでいます。やはり水中の石灰分が沈殿して、自然の堤防や滝が生まれ、美しい景観を作り出しました。番組では夏だけでなく冬の様子も撮影したのですが、凍り付いた滝が不思議な魅力を放っていました。

中国南部カルストでは、雲南省の石林(せきりん)という所も撮影しました。名前の通り、塔のような奇岩が林立し、まるで剣山。

中国では「天下第一の奇観」と謳われています。中国人はこうした奇岩に名前を付けるのが好きで、どことなく形が似た石に「蓮の花」とか「花かごを背負った少女」とか、ちょっとロマンティックなネーミングがされています。
同じようなカルスト地形で他にも世界遺産になっているのが、マダガスカルの「ツィンギ・デ・ベマラハ国立公園」。

やはり剣山のような岩山が、南北100キロも続きます。このツィンギの景観も、石林の景観も、石灰岩の大地が雨水で浸食されて出来たカルスト地形の代表例です。
そもそも石灰岩とは何なのか・・・実は貝殻やサンゴなどの海の生物の死骸が海底に堆積して出来たものです。その海の底にあった石灰岩層が、地殻変動などによって隆起して地上に出現します。中国の南部に広がる広大な石灰岩層も、太古の昔にユーラシア大陸とインド亜大陸が衝突したことによって、海底から隆起したものです。
この石灰岩層は中国だけではなく、インドシナ半島にも広がっていて、たとえばベトナムの世界遺産「ハロン湾」も、同じ石灰岩層が生んだもの。

茘波のように雨水で浸食されて丸い円筒形の山々が生まれ、そののちに海水面の上昇によって山々が島々へと変わり、ハロン湾の景観が出来上がりました。
世界遺産に登録されるためにはいくつかの基準を満たす必要があり、これまで紹介したカルスト地形の多くは「自然美(絶景)」と「地球の歴史の主要な段階を代表する顕著な例」という、自然遺産に必要な二つの基準によって登録されています。まさに地球の歴史という時の流れの中で、自然の営みが生み出したのが石灰岩であり、カルスト地形です。同時にカルスト地形は「奇岩の絶景」も生み出し、自然美という基準も満たしました。だから世界遺産、特に自然遺産には奇岩が多く登場するわけです。
番組で奇岩の絶景をごらんになるとき、その背後には潜んでいる悠久の時の流れに想いをはせてみたらどうでしょう。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太