世界情勢と米大統領選、なぜトランプ氏が強い?

――共和党の予備選では、トランプ氏が圧倒的に強いようだが。なぜ今?

ワシントン支局 涌井文晶記者:
変化が続くアメリカの状況に不安を感じている有権者の心をつかんでいるのが、大きい。移民の増加や性的少数者の権利の拡充などで大きく変化してきたが、都市部以外の地域では「アメリカを再び、偉大に」というスローガンを掲げて、それらから距離をおくトランプ氏は強い求心力を保っている。また相次ぐ裁判という通常なら向かい風になる要素もトランプ氏にとっては支持を固める材料になっている。支持者はマスメディアによる報道への不信感も強く持っていてバイデン政権が無罪無実の罪をでっち上げてトランプ氏の再選を妨害しているという主張もすんなり受け入れられ、トランプ氏が支持を高める材料になっています。

――アメリカの大統領選挙、アイオワの注目点はどこですか。

共同通信社 特別編集委員 杉田弘毅氏:
トランプ氏が50%以上の票を獲得するかどうか。もしも55%を上回れば、世論調査は正しいということでバイデン氏との一騎打ちに対しても、トランプ氏の勢いがつくと思う。もし50%を割るとトランプ氏に対して懐疑的な見方が共和党員の間でも広がっているということになり、ニューハンプシャー州ではヘイリー氏が勢いを持ち「トランプ弱し」とメディアが猛烈に報道してくる可能性がある。

――アメリカが内向きになっていることが、世界の国際情勢を混迷させている。
まず、ウクライナの戦争。膠着状態に陥ってしまったのは、なぜ?

共同通信社 特別編集委員 杉田弘毅氏:
プーチン氏が狙っている通り、ウクライナのかなりの部分を占領したまま。バイデン氏が言っていた「民主主義対専制主義」の対決という歴史的な戦いであるとしたら、戦争起こした方が勝ったということになって、アメリカが負けた、あるいは民主側が負けたというようなことになる。アメリカの権威の低下になる。

――軍を出す、早く兵器を供与する、予算を付けるとか今のアメリカにはできない?

共同通信社 特別編集委員 杉田弘毅氏:
ウクライナは、西側と東側の間にあり、アメリカ人の世論として遠くの国のためになぜアメリカ人の税金を使うのか、アメリカの兵隊を送って、死ぬかもしれない犠牲をなぜ払うのか。「アメリカファースト」というトランプ氏が言っていたことがアメリカの人々でも共有していて、世界には関与したくないという象徴的な事例になる。アメリカがいろいろ口で言ってる割には実際、国際秩序の支えをしないということになると、信じてはいけない。自分たちで自分の利益を守っていくしかないということになり、ますますアメリカの権力は落ちていくということになります。

――もう一つ、ガザ・イスラエルの戦争でも、アメリカは中東和平の道筋を示せない。

共同通信社 特別編集委員 杉田弘毅氏:
ウクライナもまさに象徴的なのですが、冷戦が終わったときには自由主義陣営というアメリカ人が勝った。ところが今は今回負けつつあると受けられる。だから中東も冷戦が終わったときに、イラクがクウェートに侵攻して、イラクの不法行為・国際法違反を許さないということで、アメリカは50万の兵力を送って、猛烈な金額も使って、同盟国も固めて、そこで追い出したということは戦争でやった。残ったイスラエル・パレスチナ問題も中東和平を再開させ、オスロ合意を実現した。そういった力仕事が当時アメリカはできた。ところが今回は、2万を超える人が死んでいるにもかかわらず、アメリカが何もできずにネタニヤフ・イスラエル首相の言いなりになっているイメージ。アメリカはどうなったんだということを、世界中、グローバルサウスあるいは中国、ロシア、日本も含めてアメリカの力に対する大きなクエスチョンマークがついている。また払拭するだけのイニシアチブを全く発揮してない。

――戦後の国際秩序を作ってきたアメリカの自由とか人権とか民主主義を実現する世界を作ってくんだというソフトパワーがなくなるのが怖いところでは。

共同通信社 特別編集委員 杉田弘毅氏:
アメリカの秩序はいろんな問題はあったわけですが、民主主義なり自由なりに向かって世界を動かしていくという意味では力があったし、あるべき。それが崩れてくると弱肉強食の世界に戻って、中小国あるいは弱い国、あるいは核兵器を持っていない国というのは、「これからどうやって生きていくんだ、では自分たちで核兵器を作ろう」とか、そういうことになりかねない。

――大統領選挙で国際情勢のことが語られることはなさそう?

共同通信社 特別編集委員 杉田弘毅氏:
今回の選挙にかぎっては、例外的にウクライナとガザの戦争は、影響力を持つと思う。なぜかというと、現在起きていることは、アメリカが敗北しつつあるということ。

トランプ氏はバイデン氏を叩く上で使う。ガザ戦争もテレビ映像などで毎日250人のパレスチナ人女性や子供が死んでいると、アメリカの国民に届けられている。これに対してアメリカが何もできていない。バイデン氏が、世界を統治するアメリカの大統領指導力を発揮していないということになって、アメリカが弱まってる場合ではないということになってしまうんだと思う。

――逆にトランプ氏の立場からいうと「俺だったらもっとうまくできた」という話か。

共同通信社 特別編集委員 杉田弘毅氏:
トランプ氏はずっと言ってきたし、これからも強めて言ってくると思う。それで問題は、プーチン大統領。明らかにトランプ氏であれば、元々2人はなぜかケミストリーがあったので、トランプ氏が11月に勝ってくれればウクライナ戦争は、ロシアが望むような形での手打ちをしてくれるんではないかと期待している。まさに選挙結果待ちのために今年は戦争を続けていくという状況だと思います。

それとネタニヤフ氏とトランプ氏は非常に関係が良かったし、前政権では、大変なイスラエル寄りの政策を思い切ってやった人。11月の選挙でトランプが勝てば、ガザ地区からパレスチナ人をかなり追い出すとかイスラエルが望むようなディールができる。この2つの戦争は、今年は大統領選の行方を見るために、様子見になる。

――両方ともトランプ大統領が出てくるのを待っているっていう状況?

共同通信社 特別編集委員 杉田弘毅氏:
合わせて言うと、ウクライナをもっと支援しなくてはいけないヨーロッパもトランプ氏が来れば違う展開になる。そうすると今支援してもそれは無駄になる可能性があると。ヨーロッパも様子見だし、パレスチナでいえば、アラブの国々も状況がクリアになってから態度を決めようという動きになっています。トランプ氏も「私だから、2つの戦争を終えることが出来た」という振り付けで動いてくると思う。

――トランプ氏が、また勝つ可能性はありますか?

共同通信社 特別編集委員 杉田弘毅氏:
それなりにあると思う。それと、国際情勢でいうと、台湾。トランプ氏は、台湾の民主主義・人権・自由のためにアメリカが助けてあげようという、積極政策をとらない可能性がある。ということで、非常に台湾の人が心配しています。

(BS-TBS『Bizスクエア』 1月13日放送より)