今月8日から1週間、能登半島地震の被災地を取材した。家屋は倒れ、広域で断水が続きトイレも使えない状況。自宅が全壊し、着の身着のままの状態で“自主避難所”に身を寄せている、小学生の男の子2人と父親に話を聞いた。
(news23ディレクター 柏木理沙)
「子どもと風呂に入ってファミレスに行くのが今の夢」自宅全壊の親子
1月8日、輪島市河井町。倒壊した家屋のうえに雪が積もっていた。
家々は1階部分がつぶれて屋根瓦が地面に落ちていたり、2階部分が滑り落ちていたり、道路は至るところで隆起・陥没していた。
路地に入って奥に進んでいくと、子どもたちの楽しそうなはしゃぎ声が聞こえてきた。
小学生の男の子3人が雪遊びをしている。
「雪合戦しているの。ひまなんだもん」

自宅の状況を聞くと「めちゃくちゃになった」と話す。
今一番困っていることは何か訊ねると、3人から次々と答えが返ってきた。
「友達の情報。どこにいるのか、わからない」
「着替える服がないから、服がほしい」
「水が出なくて困っている」
「家が壊れておもちゃを取りに行けないから、ゲームがほしい」
地域一帯は停電しているが、避難している建物には、電気が通っているという。
自衛隊の車両が、支援物資を届けに来る際には、避難所への運び込みを手伝っているのだと教えてくれた。
Q.夜は眠れている?
「眠れるけど、小さい揺れとかでも、すぐに起きちゃう」
「学校には、絶対しばらく行けないよね」
外で遊んでいた3人のうち小3・小5の父親、坂口竜吉さん(47)。
和食店「のと吉」の店主で、店舗兼住宅の3階で家族と過ごしていた時に地震が起きた。
坂口竜吉さん
「屋根ごと下の2階に落ちました。建物の中の階段も非常階段も使えず、プロパンガスが全部噴き出していて、いつ爆発するかという状態でした。子どもたちが脚立を見つけ出してくれて、近所の人たちも駆けつけて力を貸してくれて、何とか家から出ました。その時点ですぐに『津波が来るから逃げろ』と言われて、近所の人の車に家族5人乗せてもらって何とか逃げ出したんです」

輪島市では避難所も満員に近い状況だ。近所の人たちと話し、建物のダメージが少なく電気が通っている近隣のバリアフリー施設に“自主避難”することを決めた。このバリアフリー施設は、景観重視の観点から電線の地中化が完了していたので停電を免れたようだ、と坂口さんは話す。
坂口さん
「電気が来ていたということが本当に命をつなげる一番の要因でしたね。絶望的な状況の中でも、温かいだけで、少しは笑おうと思うこともできる」
しかし、断水は続いている。飲料水は支援物資で賄えているというが、トイレなどの衛生面が最も心配だ。
坂口さん
「今みんなの本当に一番の希望は、お風呂に入りたい。それを楽しみに、日々辛いことを乗り越えています。子どもたちと、お風呂に入って、ファミリーレストランに行って、美味しいものをいっぱい食べて帰ろうという。夢のようなことですが、今そういう話をすることが一番大切になっています。体調を保つためには、気持ちの面がすごく重要。気持ちが落ちている高齢の方から、体調を崩している状況です」
断水はいつ解消されるのか。家族は今後どこで暮らせばいいのか。店はどうするのか…。
不安をあげれば、きりがない。
坂口さん
「考えても現時点ではどうしようもできないし、どうしていいのかもわからないし、今ある現実以外のことは極力考えないように努めています。意識的に不安を取り除く必要があるかなと。1日1日できるだけのことをして、『きょうはよく頑張ったね』って避難所の人とお互い話しながら、その繰り返しで生きています」
インタビューの間、雪合戦を続ける子どもたちの歓声がずっと響いていた。

坂口さん
「子どもたちのふざけ合っている姿を見ているだけでもすごく元気をもらえます。これ以上子どもたちに辛い状況を経験させたくないので、なんとかこの先の未来を、僕たち大人が用意してあげられればいいなと思っています」