出産時のトラブルで子どもが負った重い障害「脳性まひ」。そんなときのために3000万円の補償制度があります。しかし、その後の生活を支えるはずの補償を受けられない子どもたちがいます。一体なぜなのか、家族の苦悩に迫りました。

補償があれば…お金があれば…学校の授業も給食も母親が付き添う


愛知県犬山市の小学3年生・鈴木紗那ちゃん8歳。脳性まひで手足が動かしづらく、自力で歩くことはできません。

クラスでは学習係。休み時間にみんなで何をして遊ぶかを考える役目です。

(脳性まひ児・鈴木紗那ちゃん)
「イベントづくり一緒に手伝ってくれる?」

(クラスメイト)
「いいよ」

母親の千裕さんはそんな紗那ちゃんの様子を廊下からそっと見守ります。校内の移動などが自分でできないため、付き添っているのです。給食も一緒です。


(母親・千裕さん)
「学校だけじゃない。学校終わりにリハビリに行ったり病院に行ったり。そこまで体力が持たないですね」

できればヘルパーを雇いたいと考えていますが、経済的に余裕はありません。

(母・千裕さん)
「お金があればな…出してあげたいなという気持ちは常にある。補償があれば経済的不安はとりあえずはなくなるのかな。救済してほしい」

予定より2か月早く出産 病院側も「出産時の低酸素状態」と認めていたのに…


紗那ちゃんが生まれたのは、予定日よりも2か月ほど早い、妊娠32週目。体重は1855グラムでした。

出産直後に「お母さん、生まれましたよ」といった言葉はなく、「処置して!」という声が響く中、紗那ちゃんは連れていかれました。ドラマで見るようなバタバタ感だったそうです。

検査の結果、脳性まひが判明。病院からは、出産時のトラブルで低酸素状態になったことが原因だと説明を受けます。

(母・千裕さん)
「生まれた時に呼吸できなかったと思うんだけど、そこで脳にも良い酸素がいかなかったからって」


千裕さんによると、カルテにも「4月1日(誕生日)発症」と書かれていたと言います。

「納得いかない」“医学的根拠ない”と個別審査廃止も審査で落ちた子には補償なし


出産時のトラブルで「脳性まひ」となった場合、「産科医療補償制度」で総額3000万円が支払われます。しかし、紗那ちゃんは「対象外」に。

理由は、補償を受けるには、低酸素状態で生まれたことなどを確認する個別審査がありますが、紗那ちゃんの数値は基準よりも0.3高かったのです。

(母・鈴木千裕さん)
「がっかりしました。健常者とほぼ変わりなく生活できる子が対象になっていて、うちみたいに歩けないとか寝たきりの子が対象外になっているとはちらほら聞いていた。『納得いかない』の一言ですよね」


2022年1月、この個別審査は「医学的根拠がなかった」として廃止に。28週以降に生まれた子どもであれば、原則補償を受けることができるようになりました。


しかし、個別審査の廃止より前に「対象外」とされた子どもについては、補償されないままです。

娘のためにできる限りのことはしてあげたいと考えていますが、経済的な負担が家計に重くのしかかります。

(母・鈴木千裕さん)
「(雨の日は)短い距離でも濡れるので、カーポートをつけたい。200万円くらいかかると言われた。身体障害なので段差もスロープにしたい。(実現していないのは)お金の問題」