■「銃弾を選ばなければ、政治に関わる機会はたった1枚の紙しかない」

国際政治学者の藤原帰一さん。安倍政権には批判的な立場だったが・・・

東京大学 藤原帰一名誉教授
「やるせないですね。攻撃を、無残な暴力を防ぐことが出来なかったのかという思いが、一つあります」

憲法改正や日ロ問題など、安倍元総理の政策には「高い評価を与えることはできない」としたうえでこう語った。

藤原名誉教授
「政策で反対する人だから、銃で攻撃されていいということにはまったくなりません。考え方が違う人だからこそ、逆にこのような暴力が行われたことに対する、やるせない悲しみ、驚きを感じます」

そして藤原さんは、かつてのテロが繰り返された歴史から学ぶべきだ、と話す。

藤原名誉教授
「国内のテロが広がっている時代は、国際関係も不安定になっている時代と重なることが多い。第二次世界大戦前、日本の軍国主義の時代、テロリズムが繰り返された状況は、同時にヨーロッパの国際関係が不安定になっていく時代とほぼ重なっています。ただ、ここで『そんな社会になるんじゃないか』『心配だな』と思うところで多分止めちゃいけないんですね。そんな社会になってはいけないのです」

ーーこういうことが引き起こされてしまう社会の深層では、何が起きているんでしょうか?

藤原名誉教授
「私たちは『このような社会に生きてるんじゃないか』ということを、粗暴な事件を手掛かりに、社会の底流を探るっていうことはできるのですが、ただ、その正当性がよくわからない。立証できないですから。とすると、私たちがそれぞれの事件に対して刺激される恐怖を社会に投影することになりかねない」

そうした中で、7月10日に迎えた投票。藤原さんは、改めてその意義を問いかける。

藤原名誉教授
「ムードに流されることは大変恐ろしいこと。この選挙と安倍元総理に対する狙撃が、例えばテロに対する恐怖から、法と秩序を過大評価するような方向に動くとか、あるいは狙撃された元首相に対するシンパシーから投票行動が変わるとかいうこと、これは本来選挙とは直接に考えることではないです」
「何より1票しかないんです。私たちが銃弾を選ばないということは、政治にかかわる機会は、たった1枚の紙しかないわけですね。それの持っている意味を改めて考えて、そして民主主義という、専制支配と異なりテロリズムを認めない制度の意味を確かめる必要があるのだろうと思います。本当に教科書通りの言い方をしてると私は思うのですけども、ただ、このような民主主義の教科書を再確認しなければいけない状況は、大変残念なもの」

(報道特集 2022年7月9日放送)
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