「クリスマスより毛沢東の誕生日」
ちなみに中国では数年前、「西洋のイベントよりも中国伝統のイベントや文化を重視すべき」という通達がだされ、学校では「クリスマスを祝わないように」と指導されている。中国のSNSには子どもたちが「私は中国人です。クリスマスは祝いません」と宣誓する動画が多数あがっている。
参考)「クリスマスを祝うな?中国『西洋の祭り禁止』を小中学校に通達」(2022年12月23日放送)
習近平指導部は「中国式現代化をもって中華民族の偉大な復興を全面的に推進する」という目標を掲げている。「中国式現代化」とは「欧米と違う、中国独自のやり方で発展しよう、中国の伝統文化に誇りを持とう」というもので、欧米の価値観とは一線を画すものだ。
「クリスマスと毛沢東の誕生日、どっちが大事ですか?」
そんな問いかけもしてみた。
「クリスマスよりも毛沢東の誕生日のほうが中国にとっては意味があります」
「クリスマスは西側の祭りでしょ?中国の祭りではありません」
クリスマスより毛沢東の誕生日を祝いたい。若者たちの言葉には、中国式愛国教育の成果がしっかりと根付いていた。

「毛沢東の素晴らしいところは世界を驚かせた人だったこと」。そんな声もきいた。
米中対立が深まる中、かつてアメリカと対等に渡りあった指導者として、毛沢東は改めて誇れる存在のようだ。
若い男性からは「経済発展はいいことだけど、イデオロギーの面では西側に影響されすぎています。革命の精神を忘れないことが大事だと思います」と、今の指導部が聞いたら泣いて喜ぶような言葉も聞かれた。
経済成長を遂げ、アメリカと並ぶ「大国」になった中国。しかし一方で、巨大になった自身の体を持て余しているような、世界の中で自分をどう位置づけるのか、自身の自画像をうまく描き切れていないような危うさを感じることがある。中国がアイデンティティーを構築するうえで「毛沢東」というのは居心地の良さを感じさせるワードなのかもしれない。
「毛沢東ブーム」の背景に「社会の閉塞感」
午前0時。26日に変わった瞬間、広場の熱気は最高潮に達した。毛沢東を賛美する歌「東方紅」が響き渡る。


「毛沢東ブーム」ともいえる現象について学習院大学の江藤名保子教授は「漠然とした将来不安や閉塞感を受け止めてくれる感情の置き場として過去の社会主義のイデオロギーが強調された時代に対するノスタルジーみたいな感覚が働いているのでは」と分析する。
「昔はみんな貧乏だったけど平等だった。先行き不安を覚えた時に少なくとも表面的には格差がなかった過去の社会主義時代にノスタルジーを感じ、毛沢東はそのひとつのアイコンとして位置づけられているのでは」。
また、若者が毛沢東を信奉することについては「経済発展の減速が実感される中で、社会の閉塞感、不安感を強く持っているのが若年層であること。毛沢東に対するマイナスのイメージがないのは、中国の歴史教育の中では負の部分を強調しない傾向がどんどん強まっているから。中国の教育は疑うことを教えないで、「正しいこと」を教える受容型の教育が多いからではないか」と愛国教育の影響を指摘した。