毛沢東の銅像の前ではためく赤旗の波・・・。この国は革命前夜なのか、文化大革命の再来なのか、はたまた、野外フェスの会場なのか・・・。そんな不思議な気分にさせられる光景が、目の前に広がっていた。

「毛沢東時代が懐かしい」

2023年12月26日。私たちが訪れたのは毛沢東の生家がある、中国・湖南省韶山市。山あいにある小さな村に、多くの人が集まっていた。目的はただ一つ。毛沢東の誕生日をともに祝うため。

生家の前に建てられた黄金色に輝く毛沢東像。誕生日前日の25日午後から、次々と巨大な花かごが運び込まれていた。「毛主席は永遠」という言葉が添えられた花かごと記念撮影をする人。銅像に向かい手を合わせて拝む人。熱心に祈りをささげる人。誕生日ケーキを供える人。毛沢東を称える歌を歌う人。銅像の前は「毛沢東信者」でごった返していた。

集まった人たちに、なぜ来たのか聞いてみた。

「私は毛沢東時代に育ちました。とても懐かしいです。あの時代には暖かさがありました。誠実さ、素朴さ。今の時代には失われてしまったものです」

南京から来た女性は、そう言って懐かしんだ。

今回で35回目の訪問だという男性は、今の時代について「汚職や腐敗が激しい。共産党員がみな毛沢東のようであれば国はもっと発展できる」とチクリ。「毛沢東は国民と共産党員の手本となるべき存在だ」と力説した。

若者たちが叫ぶ「造反有理」「毛沢東万歳」

「造反有理!」「毛沢東万歳!」「毛沢東思想万歳!」
ぎょっとして振り向くと、叫んでいるのは若い男性だった。「造反有理」は「反逆には道理がある」の意味で、文化大革命のスローガンだ。

「毛沢東が好きで愛しています。尊敬しているのでわざわざ来ました」と語ったのは厦門から来た青年。毛沢東は「人民に対する思いやりがあって、軍事的な才能にあふれていて、素晴らしいリーダーだ」という。胸には毛沢東をかたどったバッジが光っていた。「今の時代と比べてどうですか?」という質問は「なかなか難しい」とはぐらかし、カメラに向かって「毛沢東思想万歳!無敵の毛沢東思想万歳!」と叫んだ。

毛沢東を懐かしむのは当時を知る年寄りばかりだと思っていたので、若い人が多いのに驚いた。「知らないのになぜ好きなの?」と問いかけると、若い女性は「おじいさんから毛沢東について教わった」と答えた。

光が強ければ強いほど影も濃くなるように、「建国の父」として尊敬を集める毛沢東には、暗い負の側面が付きまとう。文化大革命に大躍進。国を混乱に陥れ、数千万ともいわれる、多くの命が失われた。

その点はどう思っているのか。70代の男性は「毛沢東は何も間違いを犯したことはない」ときっぱり。20代の男性も「偉大な祖国を作った人です。常に人民の側に立っている人でした」と手放しで賞賛した。

広場に集う人たちの中には紅衛兵の格好をした人や八路軍(中国人民解放軍の前身)の軍服をまとった人なども多くみられた。日本でも「昭和ブーム」「レトロブーム」などの波が時々訪れるが、そんなファッションの一面もあるのではと思わされる。ひと昔前、「大中」という雑貨店が流行したが、ここに広がる光景は「大中」で売られていた雑貨のようなキッチュでポップな中国だった。