「金正恩総書記に裏切られた」男性が脱北を決意した理由

ーーーなぜ脱北を決意したのですか?

「理由は二つあります。私はロシアに来て初めて外の世界を知りました。 それは自由な世界でした。私は北朝鮮という孤立した空間で暮らしていたのだと知りました。世界はお互いにつながっているのに、北朝鮮だけが孤立しているのです。『私はこの世界の一員になりたい』、と思ったのが脱北を決意した理由の一つです。

『金正恩総書記に裏切られた』と思うようになったことが、もう一つの理由です。以前、私は金正恩総書記がとても好きで、尊敬していました。本当に他人に笑われるほど、金正恩総書記と金ファミリーを称賛していました。しかし、実際は軍事力に莫大な投資をする裏で、国民は苦しんでいることを知りました。金正恩体制は国民に関心がなく、政権を維持することしか考えていないのではないかと思うようになりました。そして、北朝鮮に戻って『金正恩氏万歳』と叫ぶのは、あまりにも耐えられないと考えるようになったのです」

ーーー脱北は大変ではありませんでしたか?

「脱北をサポートする人たちの助けを得て、ロシアから第三国を経由して韓国へと渡りました。北朝鮮から直接脱北する人たちのように、川や山を越えなければならないわけではなかったので、彼らほど厳しい経験はしていないと思います。それでも、ロシア警察の目を気にしながら、本当に韓国にまでたどりつけるのか不安でした。私のようにロシアに働きに来て、脱北を決意する人たちは他にもいます」

2023年9月 プーチン大統領と宇宙基地を視察する金正恩総書記

ーーー北朝鮮のロシアへの接近の背景をどう考えますか?

「北朝鮮にとって、労働者派遣をするのに一番いい国は、ロシアです。金正恩氏はロシアに労働者を派遣したくてしかたがないものの、派遣できないのが悩みだと聞きました。

2017年に行われた国連制裁決議で、2019年12月までにすべての労働者を北朝鮮に送還しなければならなくなりました。2019年4月に金正恩氏が初めてロシアを訪問した際、プーチン大統領に『労働者を受け入れて欲しい。制裁を解除してほしい』とお願いしたと聞いています。しかしプーチン大統領は受け入れませんでした。そのため、多くは国に帰らざるをえなくなり、ロシアにいる北朝鮮労働者は10分の1にまで減りました。残った労働者たちも、正規の就労ビザではないはずです。

今回、金正恩氏がロシアに行った背景には、当然、軍事面での協力強化という狙いはあったと思いますが、改めて北朝鮮労働者をロシアに受け入れて欲しいという思惑もあったのだと思います」

ーーー今後、ソウルでどのような人生を送りたいですか?

「今はアルバイトをしながら生計を立てています。今後はロシア語を活かした仕事をするためにも、まずは韓国の大学や大学院に行きたいと思っています。そして、『脱北者でも韓国社会で成功出来る』ことを示したいです」

ソウル市内を歩く脱北者の男性