SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者は猟師の黒田未来雄氏。北海道に暮らし、狩猟を行いながら、自然と人間が共生するライフスタイルを実践。命に向き合う生き方を執筆や講演、狩猟に同行するツアーなどを通して伝えている。その経歴は異色。大学卒業後、商社に就職。しかし、4年後NHKに転職し、自然をテーマにした番組のディレクターに。北海道への転勤を機に狩猟を開始。そして2023年8月、24年間勤めたNHKを退職して、猟師に転身した。
【前編・後編の前編】
「人間よ謙虚であれ」。生き物を食べて生まれる覚悟
賢者には「わたしのスタイル2030」と題して、話すテーマをSDGs17の項目の中から選んでもらう。
――黒田さんは何番でしょうか?

猟師 黒田未来雄氏:
15番、「陸の豊かさも守ろう」です。
――この実現に向けた提言をお願いします。

黒田未来雄氏:
「人間よ謙虚であれ」。
――猟師とはどういう仕事なのですか。
黒田未来雄氏:
猟師は職業として獣を獲って生活をするというのが第一義だと思うのですが、僕の場合は生計を立てるための手段というよりも、自分自身の生き方として狩猟採集を生活の根本に置きたいと思っていて、自分の食べる肉を自分で獲っていきたいと考えて暮らしています。
――どんなところに住んでいるんですか。

黒田未来雄氏:
実は僕は東京生まれの東京育ちで、今年北海道に移住したばっかりです。今トイレも水道もないんですけど、もちろんこれからできますが、そういう中で3か月ぐらいずっとリフォームを大工さんと一緒にやりながらそこで暮らしている。
――東京生まれの東京育ちで大変じゃないですか。

黒田未来雄氏:
僕の師匠は(カナダ・ユーコン準州の)ターギッシュ/クリンギット族という部族で、野生動物に対して礼を尽くして、きちんと解体してきちんとそれを喜びに変換して、村のみんなに分けてというその世界がすごく美しくて、自分もそういうふうになりたいなと思っていたんです。たまたま仕事で北海道に転勤になって、札幌に6年間いたんですが、転勤してすぐに狩猟の免許を取って、そこからはクリンギット族の教えに基づきながら自分でも狩猟を始めて、やっぱりこれだと。それで会社を辞めて北海道に移住しました。
――最初に生き物を撃ったときはどうだったんですか。
黒田未来雄氏:
最初に撃ったのはメスのシカだったんですが、わかりやすく言うと感謝しかなかったです。ありがとうございます。あなたをいただきますっていう。ふっと立っているだけでシカってものすごく美しいんです。すごく神々しいというか。マイナス20度、30度になる北海道の冬を、笹の葉っぱとか木の皮だけでもかじりながら生きていく力はあるんです。僕らなんかすぐ死ぬじゃないですか、裸一貫で冬山に入ったら。
それだけ強くて美しい生き物を自分が食べて、自分が命を長らえるんであれば、彼らに対して絶対恥じるようなことだったり、彼らを辱めるような人生を送っちゃいけないという覚悟も生まれるんです。肉を食べるってこういうことなんだなっていう。単にタンパク質を摂取するということではなくて、責任感や覚悟が生まれてくる。そういう力が湧く。
撃って、シカはそこで息絶えるじゃないですか。多分そのシカは痛かっただろうし、意識を失っていく間は苦しいと思うんです。それをありがとうとちゃんと感謝をして全部解体して、僕が肉を背負って10~20メートル行くと、鳥たちが降りてきて、できるだけきれいに解体するんですが、残っているカスみたいなものを食べるんです。キツネがそこに突っ込んできてキツネも食べて。シカだったものが一瞬でワシになって空を飛ぶし、キツネになってまた雪原を駆けているんです。一つの苦しみがこれだけ多くの喜び、これだけ多くの命にあっという間に鮮やかに変換していくんだなと。リアルタイムでそれを見ているとき、輪廻転生みたいなものを実感して。
――そういう命のやり取りから生まれてくるものをできるだけ多くの方に伝えたいということでしょうか。
黒田未来雄氏:
食べるってことはみんなするわけじゃないですか。皆さん「いただきます」ってもちろん言いますよね。命をいただきますという意味だと思うんですが、一体自分が感謝をしている命って何なの?というところが、スーパーでお肉を買っているだけだと本当のところは見えてこないんです。
「いただきます」っていう言葉は「あなたをいただきます」、「その力をいただいて、私はそれで生きて行きます」っていうことなんだと皆さんに感じていただければ。1回しっかり感じていただけると相当世の中が変わってくるんじゃないかなと思うんです。そういうことを伝えていきたいなと思っています。
――私たちはどんなところに謙虚さを失っていると感じますか。

黒田未来雄氏:
SDGsの言葉自体「陸の豊かさも守ろう」っていう。いや守られているのはこっちの方でしょう。陸を守りましょうっていうのは、ちょっと上から目線な言葉に聞こえてしまう。山の中でシカやクマを追うと、自分がどれだけ無力な存在かということをひたすら体感するんです。彼らがブワッと走って逃げていくところも僕はズボッとゆっくりしか歩けないし、山の中に入ると彼らには何一つかなわないです。自然をコントロールするとか自然を守るという意識はもちろん大事ですが、かといってすぐ変わるものでもないですし、もうちょっと根底的な意識の改革というか、本当に謙虚になることが一番大事だなと思います。














