津波で命を落とさないために
さて、ここで冒頭の<ある質問>に戻る。
「もし、たまたま海辺で取材中に地震の揺れを感じたら、最初に何をする?体感震度はせいぜい2か3程度の場合だけど…」
私の考える最適解は「念のためその場を離れて、少しでも高いところへ移動する」だ。
この質問のポイントは、設定した場所が「海辺」であること、そして「震度が2か3程度」であることだ。
海の近くで地震を感じたのなら、当然津波を心配すべきだ。一方、震度2か3の揺れであれば身に危険を感じることはない。「避難までする必要はないのでは」という思考が働く可能性がある。だが揺れの強弱だけで津波の有無や津波の大小を推し量るべきでないことは、これまでに記したとおりだ。
気象庁は、次のように呼びかけている。
「津波警報・注意報を見聞きしたり、海辺で強い揺れを感じたり、長くゆっくりした揺れを感じたりしたら、海辺から離れ、より高い安全な場所へ避難しましょう。」
以上について、筆者はもう少し補足したい。
津波に関しては、内陸に比べれば、海の近くにいることだけでリスクがある。なので地震の揺れを感じたら、ひとまずそのリスクを解消することを考えるべきだ。なので、たとえ体感の揺れが決して強くなくても、いったん海辺から離れることを強く推奨したい。その場合、よほど強い揺れか長くゆっくりとした揺れでない限り、具体的な行動としては、少し高いところへ行くだけでも構わないと思う。「避難」というよりは「移動」というイメージだ。

「避難」という言葉は、とても重い。高台やビルを目指して必死に逃げるという行動を、人はそう簡単にはとれない。感じた揺れが弱ければ、なおさらだろう。なので、まずは「少しでも高いところへ移動する」と考えてみてはどうだろうか。ほとんどの場合、ほんの2~3分もすれば、津波の有無が気象庁から発表される。津波の心配がなくなれば、元の場所に戻って作業やレジャーを再開すれば良い。これなら負担感も少ないはずだ。ただし津波警報が発表された場合は、問答無用ですぐに避難してほしい。
一方、「2~3分で津波の有無がわかるのなら、それを待って、津波警報や津波注意報が発表されてから避難行動をとれば良いのでは」と考える人がいるかもしれないが、それはお薦めできない。津波警報・注意報は、必ずしも津波の到達前に発表されるとは限らないし、避難する時間を十分に確保できるタイミングで発表されるとも限らない。南海トラフ地震の被害想定では、地震発生後、津波の第一波は最短数分で静岡県や和歌山県、高知県の沿岸に到達すると予想されている。津波警報の発表を待っていたら手遅れになる。
地震の揺れを感じなくても、津波は来る。
揺れの強弱だけで、津波の有無や大小を推し量ってはいけない。
海辺で揺れを感じたら、津波警報や津波注意報を待たずに、ひとまず安全な場所へ移動を。
以上を、これまで何度も大きな津波被害に遭ってきた日本にいるすべての人に当たり前のこととして知ってもらう。それが筆者の願いだ。
※1 気象庁によるモーメントマグニチュード(Mw)。2023年12月8日現在。
※2 モーメントマグニチュード(Mw)。
※3 2023年10月9日現在。