「100万だよ?何から払えばいいの?」自分1人では対応できず…


NPO「陽和(ひより)」の代表・渋谷幸靖さん(40歳)。渋谷さんは発達障害や知的障害など、これまで約50人の障害がある非行少年たちを支援してきました。

(NPO「陽和」代表・渋谷さん)
「(発達・知的障害のある人は)物忘れが激しく、明日の交通費を今日のご飯に使ってバイトに行けないとか、先のことが考えられないので、目先のことで動いてしまう」

渋谷さんの支援を受けて社会復帰を目指すタクヤさん(仮名・27歳)。妻と1歳の子どもと3人暮らしです。


(NPO「陽和」代表・渋谷さん)
「軽度の知的障害がある。(袋には)いろんな請求書や督促状とかもろもろ…」

タクヤさんは小学2年生の時、先生に彫刻刀を投げ付け警察沙汰に。その後も、窃盗に傷害と20歳になるまで何度も逮捕され、医療少年院や更生保護施設などに入りました。


(タクヤさん)
「生きにくいことはいっぱいある。感情のコントロールが本当に難しい、イライラするとそこしか見られない。今はだいぶ抑えられるが、イライラすると自分なんかどうでもいいとなる」

以前、九州地方の会社で働いていたタクヤさん。しかし、トラブルを起こして、逃げるように愛知県へ。住んでいた家の退去届も出さず今でも家賃は未払いのままです。他にも洋服や化粧品などの請求や、支払い期限のすぎた督促状もあります。


(タクヤさん)
「100万だよこれ。何から払えばいいの?家賃から?」
(渋谷さん)
「そのへんも考えないかんね。多すぎる」

対応の仕方がわからず、渋谷さんに判断を仰ぐことしかできません。


さらに、過去にネット通販で「代金だけを受け取り、商品を渡さない」詐欺に手を染めていたこともあり「対処がわからない」と渋谷さんに相談しました。渋谷さんは現在、代理人として警察に電話をして弁済に向けた話し合いを進めています。

障害のある少年が非行に走る理由とは


障害のある人の犯罪率は決して高くはありませんが、犯罪心理学に詳しい早稲田大学文学部の藤野京子教授は、障害のある少年が非行に走る理由は「生きづらさ」だと指摘します。

(早稲田大学・藤野教授)
「障害を持つ非行少年は『どうせ自分なんかだめだ』と至るときに、障害が障壁になり社会適応を阻む。その『生きづらさ』を表す方法として非行に走っているのだと思う」


2021年11月、愛知県弥富市の中学校で当時3年生だった少年が、同学年の生徒を殺害した事件。この少年には、発達障害の1つ「自閉スペクトラム症」があるとされ「疎外感や絶望感を抱いていた」といいます。藤野教授は、障害のある非行少年の立ち直りには、「居場所」が必要だと話しました。

(早稲田大学・藤野教授)
「『こういう場所もある』と誘って、行った場所がほっとできる場所になることが大切。自分の役割が見いだせる場のつくり方が大切。」

これまで何度も罪を犯してきたタクヤさん。渋谷さんの存在とは。

(タクヤさん)
「生まれて家族がいなかったから、親身になって考えてくれる人がいなかった。(渋谷さんは)親身になってくれているから自分も期待にこたえなきゃいけない。今は完全に信用しきっていて安心感がある」

タクヤさんは渋谷さんと出会い「ようやく居場所を見つけられた」と感じられるようになったといいます。今の社会には、障害のある少年の居場所づくりが求められています。

CBCテレビ「チャント!」6月28日の放送より。