中国に返還されてから25年目を迎えた香港の記念式典に習近平氏が姿を見せた。民主化が抑圧され中国化が着々と進む香港だが、習氏は「一国二制度」の存続を声高に説く。秋に行われる第20回共産党党大会で3期目突入が確実視される習近平氏。ところが、ここへ来てその立場は本当に盤石なのか危ぶむ声が聞こえてきた。ロシア問題で見過ごされがちな今、中国で何が起きているのか読み解いた。

■「多くの香港人にとって唯一できることは感情を殺すこと」


25年前の7月1日、香港はイギリスから中国に返還された。以来、香港では7月1日に民主化デモなどが行われ、押し寄せる中国化の波に抵抗を見せてきた。だが今「これまで同様の7月1日はない」と語るのは映画監督キウィ・チョウ氏だ。彼が手掛けた3年前の香港民主化運動を映画「時代革命」は香港では上映禁止になっている。タイトルの「時代革命」は当時スローガンとして使われた言葉の一つだ。

今も香港に住むチョウ監督。自由にものが言えない中、私たちのインタビューに答えてくれた。

映画監督 キウィ・チョウ氏
「今年の7月1日は弾圧を象徴する日となりました。非常に悲しい日です。(中略)多くの香港人は2019年のデモが弾圧されたことによって、今は集団でPTSDに罹ってしまっているかのようです。そのトラウマと大きな恐怖が香港を含んでいます。多くの(香港)人にとって唯一できることは感情を殺すこと。今の香港は流れの無い水のようで意見を言えず、非常に大きく抑圧されています」

香港民意研究所によるこんなデータがあるーーー香港の人に「あなたは香港人か中国人か」と尋ねた。その結果、18歳から29歳では95.6%が「香港人」と答え、「中国人」と答えたのはわずか4.4%だった。若者に限らず全世代平均でも7割が「香港人」と答えている。
これだけ見ても香港で中国化が望まれていないことは確かなようだ。しかし、習近平氏に不満を持つ者は、香港だけではなく中国本土内でも増え始めているのかもしれない兆候が見え始めているという。

■ゼロコロナ政策が生んだ「李昇習降」


この秋の党大会で習近平氏の3期目続投は既定路線といわれてきた。ところが、真偽不明としながらも「無期限の再任に反対」という朱鎔基元首相の上申書がアメリカのメディアで流れた。これに対し、すぐに中国政府は引退した党幹部に「中央の政治方針に意見してはならない」という通達を出している。

宮本雄二 元駐中国大使
「こういう話が外に出始める。本当かどうかわかりません。でも外国のプレスを使ってこういう話が出始める、その頻度が高まるということは、党内掌握ができていないことの現れなんです。本当に習近平さんが強かった時はこういう話が出てこないんです。党内の力が習近平さんじゃない方に動いたからこういう話が出た」

さらに6月、外相候補と目された対ロ政策の中心人物が左遷されたが、これは習近平氏のロシア寄りの政策への不満の表れともいわれている。これらは習近平氏が必ずしも盤石ではないことを裏付けている。

宮本雄二 元駐中国大使
「今中国の中で習近平さんに不満があるのは、ゼロコロナ政策ですよ。これは経済によくないという経済界からの不満。(中略)習近平さんは打つ手は打ってきた。人民解放軍は抑えた。江沢民さんの系列の人は全部叩いて今は習近平さんの系列の人しかいない人民解放軍の人事になっている。今猛烈な勢いで公安を整理している。新しい公安部長も習近平さんの側近。人事も握ってる。きつい言い方をすれば暴力機構、軍・警察の人事を握っている。それが習近平体制。そういう意味では相当強いです。にもかかわらず(ゼロコロナ政策による自由のなさと経済の落ち込みで)国内の不満は高まっているんです」

ゼロコロナ政策への不満が高まる中、習近平氏との対立が伝えられる李克強首相が地方を視察する模様が報じられた。映像では李克強氏を中心に人だかりができているが、誰一人マスクをしていない。ソーシャルディスタンスもなく、李克強氏もノーマスクで演説をしている。これはゼロコロナ政策への反抗にも見える。事実、ゼロコロナ政策の習近平より、経済重視の李克強を推す「李昇習降」という言葉がインターネットなどで生まれているという。

現代中国を研究する立教大学の倉田教授は中国国内の揺らぎはコロナの影響が大きいと話す。

立教大学 倉田徹教授
「社会に不穏な空気があるのは確か。ゼロコロナ政策への不満と疑問が渦まいている(中略)最初の頃はゼロコロナでやっていこうとしたものの、疲労が社会にたまっている。これを権力闘争、いわゆる椅子取りゲームに利用しようとすることは十分考えられる」