10年間の闘い…国を動かす

現場から逃げたことで罪が軽くなる“逃げ得”を許さない。佐藤さんは法の厳罰化を求めて署名活動を始めます。

佐藤悦子さん:
「飲酒運転で人をはねたら大変なことになるんだと。大変な刑罰が待っているんだという法律に変えてほしい」

佐藤さんらの署名活動が身を結び、2007年以降、飲酒運転に対する厳罰化が進みます。そして隆陸さんが亡くなった10年後の2013年、酒や薬物の影響で事故の発覚を隠す“逃げ得”を防止するための「発覚免脱罪」(最高刑・懲役12年)が新設されました。佐藤さんらの思いが国を動かしたのです。10年間で集めた署名は60万3080人分に上ります。

参議院本会議・2013年

法律の成立を受けて佐藤さんは当時、「新しい法律ができたことで、新たな犠牲者をうまないように見守っていこうねっと息子に伝えたい」と話していました。

佐藤悦子さん:
「署名活動を始めたのが2004年の判決が下されたあとです。どのように署名をお願いしたらいいのかわからなくて署名簿を持ち歩いていました。ある日、突然『今だ!』と思う時があって、通院先の病院の待合室だったんですけど、『すみません、署名してください!』ってお願いしたら、『よくわからんけどこの人かわいそうな人だから名前を書いてあげよう』って書いてくれたのか第1号でした。ほかにも大分市内に行くバスの中で話しかけていた。当時は夢中でした」

佐藤さんは奄美大島には2度と足を踏み入れたくないと思っていたものの、署名活動を通じて「この島でどのようなことがあったのか」、「何も悪さをしてない私の大切な息子が奄美大島でどうして命を奪われなければならなかったのか」ということをたくさんの人に知ってほしいと思うようになりました。

佐藤さんのもとには全国各地のほか、イギリス、アメリカからも活動に賛同する多くの手紙が届きました。1枚1枚丁寧にノートに貼り付け、今も大切に保管しています。ノートの数は14冊。「頑張れ!」「賛同します」といった声に勇気づけられたと振り返ります。

佐藤悦子さん:
「20年前、血を吐くような苦しさでした。人前で泣くこともできず…車の中で息子の名前を何度も叫んでいました。本当に消えてなくなりたいと思っていて、心の置き場所がなくて消えてなくなれば楽になれるよねって思っていた」

「本当にたくさんの人に支えられて私がやっていることを信じてもらって。この20年は私にとって忘れることができません」