新谷本人は1区希望も、3区か5区が有力

新谷はTBSの取材時に、クイーンズ駅伝でどういう走りをしたいかを問われ、次のように答えていた。「今年は寒い区間からスタートして、チームに勢いをつける走りをしたい」。つまり新谷自身は1区を走ることを希望している。

実際、積水化学には3区と5区を任せられる選手が新谷以外にもいる。世界陸上マラソンに出場し回復具合が心配された佐藤早也伽(29)が、思った以上に復調している。10月に5000mを15分34秒00で走っただけでなく、練習でもレベルの高い走りができているという。佐藤は2年前の優勝時には3区区間2位と快走し、トップに立った選手である。前回5区区間4位の楠莉奈(29)は、JP日本郵政グループ在籍時に、世界陸上とアジア大会5000m代表経験があるスピードランナーだ。

だが2人の状態が良くても新谷自身が普通の状態なら、3区と5区の10km区間のどちらかを新谷が走る。

佐藤と楠のうちどちらかの調子が上がっていなければ、新谷は3区でライバルの資生堂に先行する役割を担う。だが2人が順調なら1区と3区を2人に任せ、新谷は5区で、2年連続区間賞の五島莉乃(26、資生堂)に対抗する役割を担うかもしれない。

積水化学の野口英盛監督は「3区でリードしたい」と話す。新谷を起用する、ということなのか、佐藤の調子がそれだけ上がっているということか。「5区では資生堂の五島さんが突出していますが、ウチの選手もそれほど変わらず行けると思う」とも。

資生堂と日本郵政も優勝候補チームである。3区で廣中との対決になっても、5区で五島との対決になっても、今年のクイーンズ駅伝のハイライトになる。

廣中の駅伝は自分のリズムで押す走りを研く場所

廣中の駅伝に対する考え方はシンプルで、チームのために現在の自身の力を出し切ることだけに集中する。同じ集団で走った誰かに勝ちたいとか、区間賞を取りたいとか、いっさい考えない。昨年の3区のように終盤で競り合いになれば、そこでの勝敗も重要になるが、中盤までは周りは気にせず自分のリズムで飛ばしていく。

東京五輪や世界陸上オレゴンでも、先頭集団がスローになったので自身が先頭に立った。その走りが東京五輪では7位入賞につながったが、気象条件が涼しかったことも影響したのか、世界陸上オレゴンでは通用しなかった。「ペースメーカーにされてしまう」(高橋昌彦監督)という現実に向き合うことになった。

廣中は「オレゴンのあとはずっと、思い通りのレースができませんでした」と、ブダペストのレース後に話していた。クイーンズ駅伝は思い切った走りはしていたが、どこかに影響があったのかもしれない。

今年のブダペストでは、スローペースになっても前に出なかった。集団の中で力を溜め、不得意とされてきたラスト勝負に挑戦した。東京五輪とは異なるパターンで、同じ7位入賞を勝ち取ったのだ。短距離の動きづくりのメニューにも取り組み、スピードの高い設定タイムでも練習した。
「今回はラスト勝負をするんだ、と自分の中で強く決めていました。どんなラストスパートをかけられるか、挑戦できたと思います。その結果として入賞を勝ち取れたのは本当にうれしいです」

廣中が世界で戦うために新たなレースパターンを確立した。パリ五輪でさらに上の順位を狙うためにも、引き出しの多さはプラスに働く。

しかし廣中が世界レベルの選手に成長できたのは、ハイペースで押して行く走りを駅伝で培ってきたからだ。ブダペストから3カ月。廣中の土台となってきた走りを、もう一度研くのにクイーンズ駅伝は最適の大会だ。ライバルたちも簡単には離れないだろうが、強豪選手を引き連れるように走り、最後には引き離す走りを見せるのではないか。

駅伝でもう一回り土台を大きくできれば、パリ五輪で7位より上の順位が見えてくる。