ベテラン2人はチーム内でどんな存在なのか
森は高校、大学とキャプテンだった。積水化学でも入社2年目の終わりにキャプテンになり、3シーズンその役割を任された。キャプテンを後輩に譲った後も、(TWOLAPS TC以外の)最年長選手ということもあり、自然とチームのまとめ役を果たしてきた。
キャプテンだった頃から、駅伝メンバーを外れた選手たちへの配慮をしっかり行っていた(昨年は自身がメンバーから外れ、当事者の気持ちが痛いほどわかった)。
「入社前は各チームでエースだった選手ばかり。走って当たり前だった選手が外れたとき、やる気のない態度や行動が出てしまいがちなんです。それがチーム力を低下させることもあります。それだけは起きないように心がけていました」
そして近い将来の引退も考えている今は、チームの今後のことも憂慮する。
「今、チームの主力はアラサー(30歳前後)が多いので、数年後にはいなくなります。そのとき、あの頃が黄金時代だったと言われないように、残せるものを残してあげたいですね。競技に取り組む姿勢や考え方を、下の子に見せられるうちに見せていきたい」
来年、入社10年目となる森は、それほど“積水化学愛”が強い選手なのだ。
それは移籍の吉川にも、同じような気持ちがある。前所属では競技を続けることができなくなり、ユニクロに拾ってもらう形で入社した。21、22年の駅伝での快走は「入社3、4年目で、そろそろ結果を出さないと競技継続ができなくなる」という自覚が大きかった。
「シーズンを通して気持ちが入った練習をし始めました。3000m障害で9分台を出せなかったら競技をやめると決めて、当時はまだそれほど普及していなかった厚底のスパイクに投資もしました。やめたくないから頑張ることができました」
練習は1人で行ったり、同じ場所でもメニューや設定タイムが異なる。吉川から若手に、何か話しかけることも以前はなかった。若手も「緊張してしまうのか、話しかけてきませんでした」(吉川)
だが近年は、後輩たちが吉川と一緒に補強をしたり、同じ場所での練習を希望してくるようになった。「私のようになりたい、と言ってくれる子もいるんですよ」。
ユニクロは練習メニューと実績(どういうタイムで行ったか)を、選手全員が共有する。それを見て「雰囲気が良くなさそうだな」とわかることもある。それが吉川が練習に合流すると「良い意味で練習がピリッとする」。練習の設定タイムに対する達成率や消化率が、少し違ってくるのだ。
森は優勝候補チームで生え抜きの選手、吉川はこれから伸びていくチームの移籍選手。置かれている状況は違っても、2人の長年の頑張りと熱い気持ちがチームを良い方向に変えていくのは同じである。そんなストーリーも、クイーンズ駅伝の裏側で進んでいる。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は森選手(左)と吉川選手(右)