クイーンズ駅伝が世界へのステップに

新谷はクイーンズ駅伝から2か月も経たない今年1月15日に、ヒューストン・マラソンで日本歴代2位の2時間19分24秒をマークした。駅伝のレース直後には「タイムも遅いし、序盤は懺悔しながら走ったくらいなので、マラソンにはつながりません」とコメントした。しかしスタミナではなく、スピードを基に42.195kmを組み立てている新谷の特徴が、昨年の3区で確認できた。それをヒューストン・マラソンにつなげたと言って、間違いではないだろう。

廣中は今年の世界陸上ブダペストで、これまでとはレーススタイルを変更し、ラスト勝負で世界に挑んだ。昨年の世界陸上オレゴンまでは、自身が先頭に立って先頭集団の人数を絞るレース戦術だった。21年の東京五輪と同じ7位だが、それを違うレースパターンで勝ち取った。世界と戦えた手応えは大きかった。

「2年前より、どの選手が強いのかわかっています。みんな1500mや5000mもやっているから強い。それをつねに頭に置いてやってきて、その結果として新しいパターンで入賞を勝ち取れたのは本当にうれしいです」

今年に入ってから短距離的なドリル(動きを作るためのメニュー)を取り入れたり、初めてサンモリッツ(スイスの高地トレーニング場所)で合宿し、スピードの高いメニューに取り組んだ。それらが2度目の入賞の要因になったが、昨年のクイーンズ駅伝もラスト勝負にトライするきっかけにはなった。

一山は10月のMGCで、23kmからスパートして独走に持ち込んだ。しかし終盤で脚が止まり、優勝した鈴木優花(24、第一生命グループ)に40km手前で抜かれて2位に終わった。勝負には敗れたがパリ五輪代表を獲得できたのは、鈴木に抜かれてからも粘ることができたからだ。一山自身はMGCを「粘れなかった」と納得していない。だが、MGC終盤の走りの片鱗を、昨年のクイーンズ駅伝で見せていたのは事実である。

昨年の3区でトップを走った3人は、完璧なパフォーマンスにはならなかったかもしれないが、23年シーズンで結果を出すことに成功した。駅伝で力尽きてしまわないトレーニングをすることが前提だが、駅伝のハイレベルの戦いは、世界と戦うことにつながっていく。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は左から新谷選手(積水化学)、廣中選手(JP日本郵政G)、一山選手(資生堂)