肩こりの正体が明らかに 一方で見逃せない注意点も
2022年の厚生労働省の「国民生活基礎調査」によると、病気やけがなどで自覚症状のある人、すなわち「有訴者」が多いのは「腰痛」がトップで「肩こり」が続きます。肩こりは男女ともに2位の症状となっています。
では、そもそも肩こりとは何なのでしょうか。
日本臨床整形外科学会(東京都台東区)のホームページでは、「肩こり」は「肩甲骨周囲にある筋肉の血行不良が原因で筋肉がこる(かたくなる)状態」と説明されています。
井尻さんによると、多くの場合は「筋肉の疲労」が肩こりの正体です。「同じ姿勢を続けると筋肉は疲れます。人間の頭は体重の10分の1ほどあるので、体重50キロの人の場合、パソコンやスマホに向けて頭を傾けていると、それだけで5キロほどの負担が首や背中の上の方の筋肉にかかります。そして、腕も3キロほどの重みがあるので、腕をたらしているだけでも同じように筋肉に負荷がかかっています」と話します。
そのため、肩こりを感じたとしても、それは筋肉が疲れたというサインに過ぎないそうです。1時間に1回ほど、ストレッチをしたり、両肩を回したりすれば対策になるそうです。
一方で、神経痛や心臓疾患などが原因の場合もあるため、井尻さんは「長引く場合、専門家に一度診てもらうことは大事です」と強調します。
首を動かした時に、肩や腕がしびれるといった場合は、頸椎に病気が潜んでいることもあるため、受診が必要な場合もあります。
「肩こり」は夏目漱石が編み出した言葉?
英語で「肩こり」を無理やり表記すると「Stiff Shoulder」になるそうですが、一般的な用語ではないそうです。
日本では、今から100年以上も前の1909年(明治42年)、夏目漱石が発表した小説「門」の中で、肩に対して「石のように凝(こ)っていた」という表現が使われています。それまでは肩が「張る」という表現が主流でした。
【御米は眉を寄せて、右の手で自分の肩を抑えながら、胸まで蒲団の外へ乗り出していた。(中略)宗助の手が御米の思う所へ落ちつくまでには、二度も三度もそこここと位置を易えなければならなかった。指で圧してみると、頸と肩の継目の少し背中へ寄った局部が、石のように凝っていた】(夏目漱石「門」より)
井尻さんは「誰だって同じ姿勢を続ければ筋肉が疲れます。血行も悪くなります」と話します。
そして「ある種、思い込みによって日本人が肩こりを病気にしてしまったようにも感じます。私は筋肉の疲労だと認識してから、肩こりをほぼ感じなくなりました。なで肩でもとにかく体を適当に動かしてほぐせば大丈夫です。単に筋肉の疲れだよと安心してもらって、肩こりの呪縛から解放されてください」とアドバイスをくれました。
◇
取材協力:井尻慎一郎(いじり・しんいちろう) 1957年生まれ。1982年大阪医科大学卒業、1994年京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。空海に憧れ現在、高野山大学大学院文学研究科修士課程密教学専攻(通信教育課程)に在籍中。小説も出版している。
取材:TBSテレビ・デジタル編集部 影山遼