筆者は結構な頻度で「なで肩だね」と言われます。たまに「肩こり」に悩まされるのはそのためかな…となで肩について医学の専門書を見てみましたが、あれ、なで肩という表記が見当たりません。専門家に聞いてみると、なで肩は医学用語ではない? さらには、肩こりも「日本特有では」という話が出てきました。

見つからない専門書 なで肩は「単なる体型の違い」

これまでの人生であまり意識することがなかったのですが、改めて鏡を見ると、筆者の両肩は水平でなく、明らかに下がっています。人生を振り返ってみると、リュックサックの肩ひもは明らかに落ちやすく、スーツも肩の形が合わないのでパットを入れてきました。

東京メトロ赤坂見附駅の近くで、道行く人に話を聞いてみました。会社員の男性(38)は「言われてみれば、なで肩の気がしますが、不具合を感じたことはほぼないです」と話します。たしかに、取り立てて言うほどのデメリットもありません。

国立国会図書館に出向き、なで肩の専門書がないか探してみましたが、一向に見つかりません。見つかったのは、食べ物の「なで肩イチゴ」に関するものがほとんどでした。

「なで肩は肩こりになりやすい」とうっすら聞いたことがあり、本当かどうか知りたかったのですが、にっちもさっちもいかず、詳しい事情を知っていそうな専門家を探したところ、井尻整形外科(兵庫県神戸市)の院長で医師の井尻慎一郎さん(66)に話を聞くことができました。

井尻さんは開口一番、「なで肩については、日本の整形外科医の教科書のような『標準整形外科学』(医学書院)にも『整形外科学用語集』にも全く記載がありません」。

論文検索サービス「CiNii」で検索してみると、日本理学療法学術大会と、大学の短期大学部家政科の論文が見つかりましたが、医学系の論文はありませんでした。

井尻さんは「これらのことが意味するのは、整形外科医にとって、なで肩といかり肩の違いは医学的な違いでなく、単なる体型の違いであるという認識です」と話します。

その上で「40年ほど医師をやっていますが、なで肩が話題になったことはほぼありません。生まれ持った体型の違い、あるいは、筋肉の発達によって肩甲骨が上がっているか下がっているかの違いに過ぎないと思います。『首や脚が長いか短いか』ということに近い話です」と続けます。

そうか、では筆者が感じている肩こりはなで肩とは関係ないのか…。そんなことをつぶやいたところ、井尻さんが思ってもみなかったことを口にしました。

肩こりは、ある種の思い込みと言えます」

え、どういうことなのでしょうか?