ティカルを襲った異変 石碑に記された「テオティワカンの血を引く王朝が誕生」とは

近年の発掘・調査で分かってきたのが、ティカルを襲った異変です。マヤ文明は文字を持っていたのですが、石碑に「ティカルにテオティワカンとつながる人物が来て、王を処刑した。そしてテオティワカンの血を引く王朝が誕生した」と4世紀に起きた大事件が記されていたのです。

テオティワカンとは、グアテマラの隣国、メキシコにある巨大な都市遺跡で、こちらも「古代都市テオティワカン」という世界遺産になっています。マヤ文明とは異なるテオティワカン文明の都市で、2~6世紀にかけて栄えました。最盛期の人口は、ティカルを上回る10万人。やはり巨大な神殿ピラミッドが建ち、最大の「太陽のピラミッド」は高さ65メートルもあります。
ティカルとは1000キロも離れているのですが、ふたつの都市の建築には同じように直線と斜線を組み合わせたスタイルのものがあり、相通じるところがあります。さらに、テオティワカン周辺でしか採掘されないタイプの黒曜石やテオティワカン様式の香炉などが、ティカルでも発見されており、ふたつの古代都市に交流があったことが分かっています。番組ではその黒曜石を撮影したのですが、光を当てるときれいな緑色に見えるもので、まさにこの点がテオティワカン産の黒曜石の特徴とのことでした。

一方、テオティワカンではマヤ様式の壁画が見つかっています。テオティワカンの壁画スタイルが平板な感じなのに対し、見つかったマヤ様式のものは色彩豊かで細かなところまで描写されています。壁画は運んでくることが出来ないため、テオティワカンにマヤ様式の壁画を描くことが出来るマヤ人がやってきたことを示しています。こうしたふたつの異なる文明の交流の中で、ティカルの王権をテオティワカンの関係者が簒奪するという異変が起きたのかもしれません。
実はふたつの都市遺跡の発掘には、ふたりの日本人の学者が関わっています。テオティワカンでマヤ様式の壁画を発見、発掘したのは考古学者の杉山三郎さん。ティカルでの発掘・修復を進めているのが公立小松大学の中村誠一教授。こちらも新たな王墓発見になるかもしれません。番組は毎回専門家に監修をしてもらっているのですが、テオティワカンのときには杉山さんに、ティカルの時には中村教授に監修をお願いしました。
1000キロを越えて交流のあったふたつの古代都市。そのふたつの都市で、新たな発見を追い求めているふたりの日本人。改めて、人を引きつける古代ロマンの力を感じます。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太