「あの人たちはオタク」 尋常ならざる畑にこだわり生まれたワイン

ワインに関わる世界遺産もいろいろあります。フランスだけでも、有名なワインの生産地「サンテミリオン地区」、ワインの積み出し港として栄えた「ボルドー、月の港」、発泡ワインの代名詞シャンパンの生産地は「シャンパーニュ地方の丘陵とメゾンとカーヴ」・・・といった具合に世界遺産になっています。

そんなフランスのワイン関連で、2015年に世界遺産になったのが「ブルゴーニュのブドウ畑の景観」。ブルゴーニュは、「ワインの王様」と称される世界最高峰のワインの生産地です。ここの特徴は細かく分かれたブドウ畑で、これを「クリマ」と呼びます。ひとつのクリマから採れたブドウだけで一銘柄のワインを作る・・・これがブルゴーニュのワイン作りの独特なところです。たとえばナポレオンが愛した「シャンベルタン」というブルゴーニュワインがありますが、これは「シャンベルタン」という名前の畑(クリマ)から採れたブドウのみで作られています。このように畑(クリマ)に付けられた名前が、そのままワインの名前にもなるのです。

この独特の作り方が生まれた理由のひとつは土壌にあります。ブルゴーニュの土壌は変化に富んでおり、隣り合う畑でも一方は小石が多かったり、もう一方は粘土質だったりと違いがあります。その差ができるブドウ、さらにはできるワインに大きな違いをもたらし、その違いを楽しむためにひとつの畑(クリマ)から一銘柄のワインを作っているわけです。

番組では、このブルゴーニュのブドウ畑の四季を一年がかりで撮影しました。世界遺産になっているのはコート・ドール(黄金の丘)と呼ばれる丘陵地帯で、秋になるとブドウの木々が紅葉し、本当に丘が黄金色に染まります。冬になると、ブドウ畑のあちこちで上がる白い煙。間引いたブドウの枝を燃やし、その灰を肥料として畑にもどす作業をしているためです。春は芽吹きの季節。すると栄養が分散しないように、ブドウの芽をひとつひとつ手作業で間引いていきます。

そして収穫の夏。ブルゴーニュでは畑(クリマ)ごとの味わいの違いを楽しむため、主に2種類のブドウに絞って栽培しています。赤ワイン用のピノ・ノワールと白ワイン用のシャルドネです。その赤と白のブドウが、夏の畑いっぱいにたわわに実ります。

その手間暇のかけかた、尋常ならざる畑(クリマ)へのこだわり・・・担当したディレクターは「あの人たちはオタクだ」と感じ入っていました。

これまでワイン関連の世界遺産の撮影は、収穫期に行うのが常でした。しかし、今回、初めて一年を通して撮ることによって、ブドウが収穫されるまでいかに繊細な作業が続けられていたのかを記録することができました。こうしたブルゴーニュの人々の数百年にわたる営みが、美しいブドウ畑の景観を生み出し、それが世界遺産になったのです。

執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太