2023年2月、自宅に火をつけて全焼させた放火の罪に問われた47歳の女。

施設でサツマイモを袋詰めする仕事をしながら、夫と前妻の息子の3人で暮らしていた。

「金の使い方が荒い。他に男がいるんじゃないか?」

事件当日の朝、夫にこう叱責された被告は、およそ5時間後、自宅に灯油をまいて火を放った。被告を追い詰めた動機は何だったのか?法廷で取材を重ねていくと、幼少期に負った心の傷や、我が子を中絶した過去、夫の度重なる叱責が被告を追い詰めていた背景が見えてきた。

「私が火をつけました」布団に灯油をまいてライターで放火

火災発生直後の現場 近隣にも火が迫る

鹿児島県大隅半島の鹿屋市串良町、田畑に囲まれたのどかな場所に20軒ほどの民家が並ぶ集落の一角で事件は起きた。

2023年2月の正午前、女(47)は、自宅1階に敷かれた布団にファンヒーターの灯油をまいて、みずからライターで火を放った。隣の家とは2メートルほどしか離れていなかったが、幸いにも延焼することなく火は消し止められた。

女は玄関近くで倒れていたところを、近くの住民によって助け出され、救急搬送される。自ら火をつけたことを、駆け付けた救急隊には言えなかった。

しかし「これ以上うそを言ってはいけない」と、病院で事情をたずねてきた刑事にこう告げる。「私が火をつけました」