2度目のマラソンの練習が重要な理由
池田はアジア大会が自身2度目のマラソンになり、初の代表としてのマラソンにもなる。どちらも、無欲で挑める初マラソンとは違う難しさがある。2度目のマラソンで陥りやすい失敗を、Kaoの高岡寿成監督は次のように説明する。
「初マラソンで成功した体験があるので、そのときと同じくらいやらないと走れない、と考えてしまうんです。特に2回目が夏のマラソンなら、練習のタイムは違って当然なんです。そこを上手く理解して応用できるかどうか」
代表としてマラソンを走る難しさは、レース中ももちろんあるが、準備段階でも生じることが多いという。
「代表という立場で、(メンタル的に)1回目にないものを背負うのは避けられません。それで練習中に、動きや感覚のズレが生じてしまうこともあります」
池田は今回、そういった部分を「上手く乗りこえた」と高岡監督は感じている。池田自身は「練習期間の長さ」が初マラソンとの違いだと言う。
「ニューイヤー駅伝が終わってから本格的に始めたので、マラソン練習期間としては短かったと思います。今回は6月にトラックを終えて3か月、準備期間をとることができました。7月は基礎的な部分をしっかりやることを目的に、ジョグを丁寧に、ボリュームを大きくした練習をしました。8月は米国で高地練習を、距離よりもポイント(スピードを上げた練習)を抑えながらしっかり行いました。9月は北海道などで、(スピードがレースに近い)実戦的なメニューを多くしました。3か月の中で段階を追って、ここまでやって来られたと思います」
昨年の4月に競技へのスタンスを見直した部分は当然、継続させている。40km走の本数を多くこなすより、「1日3回に分けて走り、合計50km、60kmを走る日が増えた」と振り返る。
「2回目がダメだと、初マラソンだけの選手と思われてしまいます。日本代表として走ることは楽しみな部分と、やらないといけない気持ちの両方がありますね」
池田のアジア大会は、注目点が明確なマラソンになる。
アジア大会出場は世界で戦う布石
池田は今季、トラックの5000mでも13分24秒14と自己記録を約7秒更新した。マラソン練習に入る前の期間にマークしたが、大きな流れとしてはマラソンに向かっている最中だった。
「マラソンで世界と戦うためには、トラックでも日本のトップレベルで戦えるスピードが必要です。マラソンをやりながらトラックもやる感覚を持てないと、アフリカ勢には勝てません。もともとボリュームのある練習をしているなかでも、スピードが出せるタイプなんです。走り込みをしながら5000m、10000mをやっていきたいですね。10000mの自己記録が27分58秒52のままですが、まだまだ伸ばしていきたい」
池田は特定の要素を研くよりも、前述のようにランナーとしての器を大きくすることを中心に考えて来た。もちろん先にトラックのスピードを突き詰めてから、スタミナを付けてマラソンで大成した選手もいる。他ならぬ高岡監督がそのタイプだった。だが池田はスタミナ練習をやりながらも、スピードを同時並行的に付けられる。バランス良く成長してきたことで、初マラソンから成功できたと思われる。池田の場合、そのスタイルを突き詰めることが、世界と戦う近道になる。
今回、10月15日開催のMGC(マラソン・グランドチャンピオンシップ。パリ五輪代表3枠のうち2人が決定)ではなく、アジア大会出場を選択したのも、それが世界で戦っていくときにプラスとなると考えたからだ。
「仮にMGCを2位以内で勝ち抜けても、いきなりオリンピックで戦えるのか?アジア大会で代表ユニフォームを着て走ること、そこで金メダル争いをすることが、MGCに出ること以上の経験になると判断しました。それが将来的に世界で戦うことになる」
池田の世界を見据えた視線は、少しもブレない。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)