アメリカで、銃を使った事件が後を絶たない。非営利団体「ガン・バイオレンス・アーカイブ」によると、2023年1月から9月に起きた銃乱射事件は500件を超えている。学校を狙った銃撃事件も止むことがない。3月には、幼児から小学生までが通う南部テネシー州の学校で、児童や校長ら6人が元生徒に殺害される事件が起きている。

■増え続ける「ザ・クラブ」のメンバー

2018年、フロリダ州パークランドの高校で19歳の元生徒が銃を乱射し、17人が死亡した事件も記憶に新しい。この事件が起きた年、アメリカのタイム誌は「世の中は先へと進んでも 自分は止まったまま」と題して、学校で起きた銃乱射事件の被害者遺族たちの特集を組んだ。事件のほとぼりが冷めれば、世間はショックから立ち直り、何事もなかったかのように時間は先へ進んでいく。でも遺族はそうはいかない、そんな状況が当事者の口から語られている。記事によれば遺族たちは自分たちを「ザ・クラブ」と呼ぶのだそうだ。学校銃撃事件が発生するたびに、この誰も参加したくない「クラブ」のメンバーが増えていく。子どもを亡くした親たちは、同じように酷い体験をした親たちのコミュニティの中で、他のどんな境遇の人とも分かち合えない心の痛みを打ち明けるのだ、と。 

記事に登場する遺族の一人、トム・マウザーさんに話を聞く機会を得た。

■コロンバイン高校銃乱射事件

1999年4月に起きたこの出来事を知る人も多いだろう。マイケル・ムーア監督の映画「ボウリング・フォー・コロンバイン」の題材になったことでも有名だ。西部コロラド州のコロンバイン高校で、在校生のエリック・ハリスとディラン・クレボルドの2人が銃を乱射するなどして生徒と教師ら13人を殺害し、世界に大きな衝撃を与えた。この事件で亡くなった生徒のうちの一人が、当時15歳だったダニエル・マウザーさんだ。ダニエルさんは、2人が図書室に押し入った際、机の下に隠れたが、撃たれて亡くなった。

■「24時間、息子の生死が分からなかった」

「何故我が子でなければならなかったのか」父親のトムさんは、事件当時の気持ちをそう振り返る。トムさんにとってさらに辛かったのは発生直後、さまざまな情報が錯綜して我が子の安否が分からなかったことだ。それまでに類を見ない数の犠牲者が出た事件で、現場の混乱は相当なものだっただろう。「どこかに隠れていて騒ぎが収まるのを待っているかも知れない」、戻らない我が子の身を案じながら当局の情報を待ち続けたトムさんが、ダニエルさんが犠牲になったことを知ったのは発生から24時間以上が経過してからだったという。