「一部の国がモスクワを手助けしている」というウクライナのゼレンスキー大統領の発言に、ポーランドの首相が「もうウクライナに武器は送らない」と反発し、両国の間の亀裂が露わになりました。ポーランドは、ウクライナ支援の先頭に立ってきた国ですが、武器の供与を停止するという強硬発言がなぜ飛び出したのでしょうか。その裏にあるポーランド側の“事情”について、現地の専門家に聞きました。

ウクライナのゼレンスキー大統領
「欧州の一部の国は、連帯感を見せ、自分の役割を果たしているように見えるが、実際はモスクワの手助けをしている」
9月19日、国連総会で演説をしたゼレンスキー大統領が「モスクワの手助けをしている」と批判したのは、ポーランドなど3か国が実施しているウクライナ産穀物の輸入制限措置。非難されたポーランドは即座に反応し…

ポーランド モラウィエツキ首相
「もうウクライナに武器は送らない。これからは自国の武器を充実させることに専念する」
ポーランドのモラウィエツキ首相は、ウクライナへの武器の供与をやめると発言。売り言葉に買い言葉のような応酬で一気に緊張が高まりました。しかし、その翌日…
ポーランド ドゥダ大統領
「最悪の形で解釈された。最新鋭の兵器は送らないと言っただけだ」
火消しに動いたのはポーランドのドゥダ大統領。ゼレンスキー大統領も国連総会からの帰路、ポーランドに立ち寄り、「これほど強い隣国があることを誇りに思う」などと述べ、関係修復をアピールしました。
ただ、穀物を巡る両国の対立の火種は、残ったまま。ポーランドで経済アナリストとして活動するソニア・ソブチェク・グリギエル氏は…

経済アナリスト グリギエル氏
「大きな問題は、ウクライナから輸入される穀物の量が、ポーランドの年間生産量の10%程度にまで達したことです。私達は穀物の生産国ですから、本来、輸入は必要ありません」
輸入する必要の無い穀物がポーランドに流入してきたのは、ロシアによる侵攻後。ウクライナは、黒海の港から穀物を輸出することが困難になり、EUは、陸路での輸出を支援したのです。
グリギエル氏
「ポーランド政府は、安価なウクライナの穀物がポーランドを通過していくだけだろうと予想していました。しかし実際には、EUは一つの市場ですから、輸入に関しての制限はありませんでした。ポーランド企業は、ウクライナの穀物の方が安かったので、ウクライナからの輸入を大幅に増やしたのです。ポーランドの農家はウクライナとの穀物競争を恐れています」

ウクライナ産の安い穀物が国内市場に入ってきたため、ポーランドの小麦相場は、この1年あまりの間に40%も下落。大幅な減収に陥った生産者たちは、2022年末から抗議デモを繰り返し、2023年4月には農業大臣が辞任に追い込まれました。
こうした事態を受け、ポーランドなどはウクライナ産の穀物の輸入を禁止しましたが、ポーランドの首相が「武器の供与をやめる」とまで言って反発したのには、こんな事情もさらにありました。

グリギエル氏
「10月にポーランドの解散総選挙を控えているからで、発言はある種の戦略であり、選挙を意識した戦術的なものだと思います。極右の野党が、現政府を“ウクライナの下僕だ”と非難しているので、彼らは恐れているのです。だから今、与党はポーランドの利益のために戦っていることを示したいのです」
首相の発言は、総選挙へ向けてのアピールだと話すグリギエル氏。そして、それは、農家に対してだけではないと指摘します。

グリギエル氏
「戦争で約100万人のウクライナ人難民がここに来ました。その影響で病院などに人があふれ、ポーランドの人々が行列に並ばなければならなくなりました。難民による社会的影響で国民は疲弊しています。それに加えてコロナ危機の後、2022年2月にポーランドでは、20%近いインフレが起きました。ウクライナ支援が長引く中、人々は今、様々なことでとても疲れているのです」