ロシアによる侵略から4日後に、ウクライナ国防相のホームページにアップされた一枚の写真。今よりずいぶん若く見えるゼレンスキー大統領と、肩を組んで笑顔で写っているのはレズニコフ国防相だ。

戦争が始まってからゼレンスキー大統領とともに戦ってきた同志であり国防の要、欧米からの武器供与についても“顔”となり推進し実績をあげていたいた人物だ。

そのレズニコフ氏についてゼレンスキー大統領が事実上の解任を突き付けた。

国防省内で軍服の仕入れについての汚職が以前から噂されていたが、レズニコフ氏は一貫して否定していた。

その中での突然の出来事の裏には、実はバイデン大統領の息子による汚職・元KGB・ウクライナ汚職摘発チーム・富豪のオリガルヒの起訴などが複雑に絡み合っている事情があると専門家が指摘した。

“汚職の王様”はゼレンスキー大統領の恩人

今回の突然の国防相“解任”の背景を語るのは元日銀マンで、2016年からウクライナの財務大臣アドバイザーとして汚職捜査などにも関わっている田中克氏だ。

ポイントはゼレンスキー大統領やイェルマーク大統領府長官の恩師ともいえるオリガルヒ、コロモイスキー氏の存在だという。

コロモイスキー氏はゼレンスキー氏が大統領になる前のスポンサーでありテレビ局のオーナー。

富豪としてウクライナの経済を牛耳り、やりたい放題、暗部も知る人物だとされる。評判はよくない。

ゼレンスキー大統領は就任以来、関係の断絶を強調し、今年1月には汚職の疑いでコロモイスキー氏の自宅などの家宅捜索も行われている。

こうしたオリガルヒなどの「汚職撲滅」は、アメリカが武器供与など支援の条件としてウクライナに突き付けているものでもある。

この「汚職撲滅」でカギになる組織が国家汚職対策局NABU。アメリカが後ろ盾になり2015年にウクライナに設置された。

ウクライナで汚職捜査をする権限を与えられている機関で、大統領直轄ではない。田中氏によれば、このNABUが9月の第三週くらいに、コロモイスキー氏を贈収賄の容疑で摘発する予定だったという。

しかし9月2日、汚職捜査の権限のない元KGBのウクライナ保安局SBUが、このコロモイスキー氏について、汚職と関係ない罪で勾留・起訴したのだという。

SBUは大統領直轄の情報機関。コロモイスキー氏の身柄をゼレンスキー大統領が自分の懐、自分の自由になる場に置きたかったようにも見える。一体なぜこんなことが起きたのか…

ウクライナ財務大臣アドバイザー田中克氏
「ゼレンスキー大統領とイェルマーク長官にとって、コロモイスキー氏は恩人なんです。その人をそう簡単には切り捨てられない。ウクライナでは今回の起訴は、一種コロモイスキー氏を守ったんじゃないかという見方もされているんです。NABUで拘束されるよりは、大統領が関与できるSBUのほうがいいと…」

汚職捜査機関に身柄を渡さないように守ったと聞くと、ゼレンスキー大統領自身や、その周辺に後ろ暗いところがあったのではないかとも疑ってしまうが…

ウクライナ財務大臣アドバイザー田中克氏
「そう見えてしまう。コロモイスキー氏は『汚職の王様』と言われる人物だった。表面上は汚職撲滅ということで自分たちが捕まえたのだとするゼレンスキー大統領にアメリカが納得するのか…納得するならそれでいいが、一筋縄ではいかないのではないか」

こうしたゼレンスキー大統領のやり方に、アメリカは不快感を示していて、NABUがレズニコフ国防相自身の捜査を本格化させたというのが田中氏の見立てだ。これに対し、ゼレンスキー大統領は先手を打ち、レズニコフ氏を現職でない状態にした可能性があるというのだ。