◆朝鮮人追悼式典を騒音で妨害する日本人

2019年に、私は現場で取材しています。私が作ったドキュメンタリー『イントレランスの時代』から、一部をお聴きください。

虐殺の目撃者がまだ生きていた、大震災50年目の年に始まった追悼式典でしたが、数年前から追悼式典のすぐ隣で、「朝鮮人の虐殺はなかった」と主張する集会が開かれるようになりました。

「朝鮮人が、震災に乗じて、略奪・暴行・強姦などを頻発させた、軍隊の武器庫を襲撃したりして、日本人が虐殺されたのが真相です。犯人は、不逞朝鮮人、朝鮮人コリアンだったのです」

「また、テロもありました。朝鮮左翼により計画されてたんです。そして実行されたんです。それに対する、住民の自警行為もありました。しかしね、6000人の大虐殺はなかった!」(RKB毎日放送2000年制作『イントレランスの時代』より)

2019年9月1日、「そよ風」会場のスピーカーは追悼碑に向けられている



この音は、本来の「朝鮮人犠牲者追悼式典」の会場で録りました。数十メートル離れたところで、式典に反対する人が集会を同じ時間に開いて、スピーカーを碑の方に向けていたのです。「虐殺はなかった」という罵声が聞こえ、日本人として居ても立ってもいられないような気持ちになり、非常に恥ずかしい状況でした。しめやかな雰囲気どころではありません。

朝鮮人虐殺否定派の市民団体「そよ風」は、「犠牲者6000人という数字には根拠がない」として、碑の撤去を求めています。

この時、「不逞鮮人」という差別用語を使っていましたが、この発言は東京都の人権尊重条例で「ヘイトスピーチ」と認定されました。こういう状況が、近年の式典でした。今年は静かに行われたのですが、実はこの後に大きな出来事が起きたのです。

◆虐殺された朝鮮人追悼碑の前で…

「虐殺がなかった」と言う人たちは、増えています。しかし、歴史的な事実の前では、ほとんど「妄想」、日本人がそんなことをしたのを認めたくないという「願望」ですね。否定しようがない、いろいろな証言や記録が残っているのに、「愛国者」であろうとするあまり、踏み出しすぎている状態かと思います。

虐殺否定派は2017年から、追悼式典(午前11時~)と同じ時間帯に集会を開き、スピーカーを追悼式典会場に向けて、静謐な祈りの場を妨害してきましたが、今年の9月1日は時間をずらしました。ところが「そよ風」は午後4時半から、追悼碑の前で「真実の慰霊祭」を開く、とブログで発表したのです。

「半島から生活の糧を求めて上京した朝鮮人も震災に遭い多数の方が落命しました。特に二百数十人の方は自警団に殺されると言う非業の最後(原文ママ)を遂げました。さぞ無念だったことでしょう。ここに真実の慰霊祭を粛々と催行致します。奮ってご参加下さい」

司法省の記録で、加害者が特定され起訴された事件に限った被害者数は、朝鮮人233人でした。この方々に限って追悼式典を開く。これが「真実」だという言い方なのです。記録に残らなかった人たちを消去しようとしているわけですね。ものすごく多くの虐殺された人は、今も名前が分からない人たちです。

◆「冒とく許せぬ」集まった人たち

現場でお会いしたのは、福岡市出身のマーケティング・ディレクター、金正則さんです。

:100年ですけどね、こんなことになっちゃって。冒とくですよね、本当に。私は“宗教”の人間ではないけど、冒とくとか踏みにじられた感じ。
神戸:この後、トラブルが起きなければいいですけど。
:そうですね。
神戸:両成敗になってしまったらまずいから、少し直接的な抗議をしにくいのではないかという声もありますが。
:それは関係ないんじゃないかな。(抗議に集まってきた人たちは)組織体じゃないから、止められないですよ。止められない。

「これは冒とくで、多くの人が阻止するために集まってきているのだ」とおっしゃっていました。在日韓国・朝鮮人だけでなく、多くの日本人も集まっていました。数百人はいたと思います。

◆慰霊の日にふさわしくない罵り合い

碑から数十メートル先に、「そよ風」が集合している場所が見えます。喪章をつけた日の丸が掲げられていました。その間には警察が入り、柵も立てて、直接衝突が起きないようにスペースを空けていました。

集合場所に待機する「そよ風」の人々



開始時刻の30分前、午後4時過ぎには非常に緊迫した空気になってきました。「そよ風」の一団が、じりじりとゆっくり歩き始めました。警察官が取り巻いています。柵の向こう側から突然、「レイシスト(人種差別主義者)帰れ」というコールが始まりました。

柵に詰めかけた抗議の人々

抗議する人:レイシスト帰れ、レイシスト帰れ、レイシスト帰れ!
そよ風グループ:てめえに言われて帰るか、ばか! てめえは無力だ。文句があるなら、この中に入ってきてみろ、この野郎! 文句あるなら入って来いよ、ぶっ殺してやるぞ、この野郎! こっち来い!

柵に詰めかけた抗議の人々



こんな、すさまじい応酬となりました。