関東大震災直後のデマによって、虐殺された朝鮮の人々がいる。震災100年の今年9月1日、RKB毎日放送の神戸金史(かんべ・かねぶみ)解説委員長は4年ぶりに朝鮮人犠牲者追悼式典の会場に足を運んだ。「虐殺はなかった」と主張する人々にも取材しRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で伝えるとともに、小池百合子都知事の責任に言及した。

◆関東大震災から100年

関東大震災の発生から100年の今年9月1日、東京都慰霊堂(墨田区)で追悼式典が開かれました。慰霊堂が立つ場所は、「火災旋風」で多くの方が亡くなった場所です。慰霊堂の隣には「朝鮮人犠牲者追悼碑」が建っていて、そこで「朝鮮人犠牲者追悼式典」が開かれました。

多くの人が詰めかけた追悼式典
追悼碑に祈りをささげる人々


大震災の後で、デマが流されました。「朝鮮人が暴動を起こした」とか、「朝鮮人が井戸に毒を入れ、火をつけた」とか。町々に、民間人の自警団が結成されました。在郷軍人も多くが参加した自警団は、「お前は朝鮮人か」と問い詰め、殺害していったという歴史的な事実があります。虐殺が起きたのは、東京だけではなくて、関東各地、私が生まれた群馬県でも起きています(藤岡事件)。

※藤岡事件 群馬県藤岡警察署を取り囲んだ群集が暴徒化、保護されていた朝鮮人17名が留置場から引きずり出され、虐殺された事件。

民間人だけでなく、陸軍が機関銃で射殺したのを目撃した日本人の証言もあります。警察も加担しています。朝鮮人だけではなく、なまりの強い地方出身者や障害のある人、中国人なども「言葉がおかしい」という理由で殺害されています。

◆今も正確な人数は分からないまま…

虐殺があったことは、目撃した多くの子供たちの作文にも残っています。遺体はその後移されるなどして、事件の隠ぺいも図られているので、虐殺犠牲者の正確な人数は分かりませんが「加害者が特定され、起訴された事件」に限って言えば、朝鮮人の被害者数は233人でした。

しかし、内閣府が事務局を務める中央防災会議(総理大臣をはじめとする全閣僚も入って構成されている国の公式な会議)の専門調査会は、2009年にまとめた報告書で、大震災の犠牲者約10万5,000人の「1~数パーセント」と推計しています。1パーセントなら、1,050人。殺害されたのは、数千人という規模となります。

報告書には、こうあります。

「武器を持った多数者が非武装の少数者に暴行を加えたあげくに殺害するという虐殺という表現が妥当する例が多かった。殺傷の対象となったのは、朝鮮人が最も多かったが、中国人、内地人も少なからず被害にあった。加害者の形態は官憲によるものから官憲が保護している被害者を官憲の抵抗を排除して民間人が殺害したものまで多様である」

「自然災害がこれほどの規模で人為的な殺傷行為を誘発した例は、日本の災害史上、他に確認できず、大規模災害時に発生した最悪の事態として、今後の防災活動においても念頭に置く必要がある」

◆植民地主義が虐殺の背景に

二度と起こしてはいけない、という意味で「今後の防災活動においても念頭に」と書かれています。どうしてこんなことになったのでしょうか――。

大震災が起きた1923年は、韓国を日本が併合してから13年後。日本人が朝鮮に持つ差別の意識、それに抑圧された朝鮮の人々が「いつか日本国内でも立ち上がるのではないか」という恐れなどが指摘されていて、植民地主義が背景にあったことは、否定できません。

震災100年の追悼式典では、静かに鐘が鳴らされ、「しめやか」と言う表現がふさわしかったのですが、実は近年はそうではありませんでした。

◆追悼メッセージを止めた小池百合子都知事

小池百合子東京都知事

2017年に、東京都の小池都知事は、朝鮮人犠牲者の追悼式典に追悼文を送るのを止めました。小池知事は「震災による極度の混乱下での事情で犠牲となった方を含め、犠牲となった全ての方に対し、慰霊する気持ちを改めて表すということで対応している」との見解です。

しかし、朝鮮人犠牲者は、災害で亡くなったわけではない。「災害を生き延びた人たち」が、人為的に殺されたのです。あの石原慎太郎さんでさえ送っていたメッセージを取り止めた小池都知事の姿勢には、強い批判が出ています。