大統領が被災地訪問も…「異例」の知事不在

被災地を訪問するバイデン大統領(9月2日)

アメリカのバイデン大統領が2日、ハリケーン「イダリア」の被災地を視察するため、フロリダ州を訪問した。地元の市長らがバイデン氏を出迎えて被災現場を案内したが、そこにフロリダ州のデサンティス知事の姿はなかった。大統領が災害の被災地入りをする場合、地元の行政府の長が迎えて案内するのが通例で、今回の知事欠席は異例のものと言える。共和党の候補として来年の大統領選挙に出馬し、政権批判を展開しているデサンティス知事が、バイデン大統領と直接どんなやり取りを行うか注目されたが、メディアは肩透かしをくらった形だ。

ハリケーン『イダリア』上陸 デサンティス知事が会見(8月30日)

アメリカメディアによると、デサンティス知事側は「警備の準備だけでも災害復旧作業の妨げになる」と説明したという。確かに大統領の視察では大勢のスタッフが現地入りすることになり、タイミングが悪ければ受け入れる側にとっては大きな負担になってしまう。ただ、政権側によると、今回の訪問場所については知事側と事前に調整を行い、「ここであれば訪問しても問題ない」との合意の元で決めたとしていて、デサンティス氏が同行しても問題はなかったはずだ。去年10月にはデサンティス知事がハリケーン「イアン」の被災状況の視察に訪れたバイデン大統領を出迎えて案内をしたが、今回は対応を変えたことになる。

知事不在の背景に…“11年前の残像”

クリスティ知事(当時)と固い握手を交わすオバマ前大統領(2012年10月31日)

与野党の分断が激しいアメリカだが、こと災害が起きた場合には政治を抜きにして大統領と知事が連携を取って対応に当たるのが通例だ。ただ、本当に政治を抜きにできるかはなかなか難しい。筆者が思い出すのは、2012年の大統領選挙の直前、ハリケーンがアメリカ東部を襲い、ニュージャージー州で高潮などの大きな被害が出た際の出来事だ。この時、民主党のオバマ大統領(当時)の被災地視察を受け入れたのは共和党のクリスティ知事(当時)。当時は共和党がオバマ大統領の再選を阻もうと各地でネガティブキャンペーンを繰り広げている最中だったが、クリスティ知事はオバマ大統領を案内しながら地元の苦しみを訴え、政府の支援に感謝した。「災害が起きれば政治を抜きにして連携する」というあるべき姿がそこにはあったが、結果的にオバマ氏を応援するような形になり、クリスティ氏には共和党内から批判が起きた。

今回、バイデン大統領の視察先には共和党のスコット上院議員(前フロリダ州知事)が姿を見せ、バイデン氏と直接意見を交わした。バイデン大統領は視察中の会見の中でそのことに触れ、「普段は全く意見が異なる議員が歩み寄ってきて、『連邦政府はうまく対応してくれている』と言ってくれたことをとても嬉しく思う」と謝意を示した。もしデサンティス知事が同行していたら、大勢のメディアの前で同じように政府の支援に感謝できただろうか。