また2000年前に作られた巨大な劇場は音響が良く、やはり今も現役で使われています。この劇場も最近撮影したのですが、カエサルの後継者である初代ローマ皇帝アウグストゥスの立像も飾られていて、古代ローマ好きにはたまらない場所です。

アルルとオランジュの間にあるのが、「アヴィニョン歴史地区」。アヴィニョンも古代ローマからの歴史ある街ですが、世界遺産になっているのは中世の建造物。14世紀の約70年間、ローマ教皇がバチカンからアヴィニョンに移っていたときに作られたキリスト教関連の施設です。



その時期は、アヴィニョンがキリスト教世界の中心となり、今も街にそびえる教皇庁宮殿はヨーロッパ最大級の中世ゴシック建築と言われます。ここに教皇庁が置かれたわけはいろいろあるのですが、ローヌ川を使った交通の便の良さも一因とされています。この街でもうひとつ世界遺産になっているが、民謡の「アヴィニョンの橋の上で踊ろう」で有名になった橋。ローヌ川の氾濫によってこの橋は何度も流されてしまい、ついには途中で途切れたまま、今に至っています。

古代、中世、そして現代に至るまで輸送路として使われてきた大河は、フランス第二の都市も生みました。それがリヨンです。この街も古代ローマ時代から重要な都市でしたが、中世以降、シルクの織物で栄えました。有名なジャカード織りはリヨンの名産で、こうした絹織物もローヌ川を使って各地へと運ばれ、売られたのです。


リヨンの丘に上に建っているのは、絹織物で財をなした市民の寄付によって作られた大聖堂。その尖塔には、街の富を象徴するように黄金色のマリア像が飾られています。こうした建築物と旧市街が世界遺産になっています。


ちなみにリヨンは美食の街としても有名で、「料理界の教皇」と称されたポール・ボキューズ、「料理界のレオナルド・ダヴィンチ」と呼ばれたアラン・シャペルなど、数多の有名料理人を輩出しています。絹織物を始めとする経済的な発展によって、食い道楽が出来る富裕層がいたこと。さらに地元の食材が豊かだったことに加え、ローヌ川を通じてさまざまな食材が各地から集まってきたことが、リヨンを「美食の街」にしたのです。
このように、古来さまざまな物や民族、そして文化を運んだローヌ川。大河はリヨン、アヴィニョン、オランジュ、そしてアルルという南フランスの4つの街と世界遺産を生んだのです。
(執筆:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太)