■「現在の政治に不満があっても我慢し、それに慣れることを余儀なくされていく」


スターリン再評価というプーチンの戦略に懸念を抱くひとり、先ほどのスターリン評価の調査を行ったの独立系調査機関の副所長に話を聞いた。

世論調査機関レバダセンター グドゥコフ副所長
「プーチン政権によるプロパガンダは、ソ連時代のナショナルアイデンティティに訴え帝国的、軍国主義的な意識を高めています。それが見事に成功してしまった。スターリン神話はプーチン政権の官僚が新たに生み出したものなのです」

このスターリン神話こそ、戦争になってもものが言えぬ社会を作ると警鐘を鳴らす。

世論調査機関レバダセンター グドゥコフ副所長
「まず国民に影響を与え、ロシア社会をかつての超大国の状態に戻し、慣れさせることだと思います。自由の価値観や個人の権利を失墜させ、国家や集団であることに価値観を発揚させていく。これは当然、政権への反対の声、言論の自由、民主化運動の抑制につながっていく。イデオロギー的な洗脳は社会を完全にコントロールされた集団に変えてしまう。人々は何もできないことを認め、現在の政治に不満があっても我慢し、それに慣れることを余儀なくされていくのです」

果たして、プーチンは新たなスターリンとなり、ロシアは新たなソ連となるのだろうか?

防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長
「ソ連時代のスターリンと現代ロシアのプーチンは置かれた状況が違う。一度ソ連が崩壊して民主化、自由化の空気を吸っているから、単純にあの閉鎖的な社会には戻れない。情報化社会で、いくら統制をしてもソ連時代のような完全な情報統制はできない・・・」

しかし、一方でこんな現実もある。

朝日新聞 駒木明義 論説委員
「メモリアルという団体(スターリンの粛清や弾圧を集めて公開する人権団体)があるんですが、2021年解散命令を受けました。こういうノーベル平和賞を受けるとされていた取り組みがどんどんできなくなっている。(中略)大統領選挙といっても選択の余地はない。プーチン氏の他はロクな候補がいない。本当に力のある人は立候補を認められない。作られた民主主義で選択の余地はなく答えは上から与えられる。社会はそれに慣れてしまっている。戦争についても経済の不安も皆諦める。不満は持っても自分たちで何か変えるとか、ましてやプーチン以外の指導者を求めるとかは考えられない社会に既になっているんです」

そしてさらに駒木氏は気になることがあるという。

朝日新聞 駒木明義 論説委員
「去年の4月に教育への国家の統制を強化する法律にプーチン氏が署名し成立している。これは反ロシアやロシアへの憎悪を煽ることを教育に持ち込んではいけないという内容なんです。今まではスターリンの負の側面にもそれなりに気を配った教科書があったり、プーチン氏も全体主義は悪いと言ってたりしていたんですが、そういうものがどんどん消えていく先駆けのようなものができているのが気になります」

BS-TBS 『報道1930』6月8日放送より)