廣中璃梨佳(22、日本郵政グループ)が女子10000mで7位(31分35秒12)に入賞した。21年の東京五輪と同じ7位だったが、レース展開は大きく違った。速い展開だった東京五輪に対し、今大会は基本的にはスローで、ペース変化が激しかった。異なるレース展開の世界大会で入賞したことは、廣中が大きく成長したことを意味していた。
後半勝負に対応した廣中
レース後の廣中の声が弾んでいた。
「いつもは最初から行くスタイルなんですけど、今回はラスト勝負したいと強く決めていました。(嫌いだった遅いリズムでも)しっかり最後まで耐えて、いかにラストスパートをかけられるか。そこに自分として挑戦できたかなと思います」
得意としていたのは速い展開だった。7位に入賞した東京五輪は31分00秒71の自己新(当時)。昨年の世界陸上オレゴンも、自ら速いペースに持ち込んで30分39秒71の日本歴代2位で走った(12位)。
今大会のブダペストは最初の1000mが3分37秒55。超が付くスローペースになった。5000m通過は16分23秒55で、2倍にしたら32分後半と、近年の世界大会では見たことのない数字になりそうだった。5600mから6000mの1周が74秒3で、それまでの周回より3秒以上速くなった。それ以降は、日本選手の苦手とするペースの上げ下げが繰り返された。72秒、71秒、73秒、72秒、74秒と、安定したペースとはかけ離れていた。
それでも、廣中は残り1周まで先頭集団に食い下がり、ラスト1周も65秒79で世界と競り合った。
「東京もオレゴンも後半5000mはもがき、しんどいレースでした。10000mは後半5000mが勝負。今回はスローになったら、自分で前に出るより(嫌いな遅いリズムでも)粘って粘って、ラストで勝負する展開も、ひとつの引き出しとして増やしていきたいと思っていました」
高橋昌彦監督によれば本番に向けての調整期に、サンモリッツ(スイスの高地練習拠点)でかなり質の高い練習を行ったという。廣中も「今まではスタミナベースという感じもありましたが、5000mでもしっかり通用するスピードを、直前の合宿期間で研いできました」と、スピードに自信を持ってブダペストに臨んでいた。
サンモリッツ合宿で質の高い練習
サンモリッツは、廣中としては初めての合宿地。高橋監督は廣中を、「高地トレーニングに適応できるタイプ」だと言う。高橋監督はもともと高地トレーニングを活用する指導者だが、東京五輪前はコロナ禍の影響で、日本郵政グループが活用してきたアメリカのボルダーに行くことができなかった。廣中は北海道でトレーニングを積んで東京五輪に臨んだが、「平地でのトレーニングでどこまで強くなるか」を試したところ、7位入賞という結果を出した。
そして昨年の世界陸上オレゴンを前にボルダーで初めて高地練習を行い、入賞こそは逃したが30分39秒71の自己新、日本歴代2位をマークした。
「オレゴン前のボルダー(合宿)が廣中にとって初高地トレーニングでしたが、鈴木亜由子(31、日本郵政グループ)や楠莉奈(29、現・積水化学)がトラックで代表になった頃より良いタイムで出来ました。今回初めてサンモリッツでやって、かなり質の高いタイム設定で練習することができたんです」
廣中が話しているように、スピード型の選手が行うようなタイム設定で練習した。今大会のラスト1000mの2分53秒26、最後の1周の65秒79は、廣中の10000mでは過去最速タイムだった。今大会の廣中は5000m(8月23日予選、同26日決勝)にも出場する。現在日本記録も持つ種目だが、今の日本記録は距離の短い5000mでも入賞や、ペース次第では日本記録更新が期待できる。