世界陸上ブダペスト(8月19日~27日)で、男子110mハードルの日本記録保持者・泉谷駿介(23、住友電工)が日本人史上初のメダルを狙う。今季泉谷は6月の日本選手権で自身の日本記録を更新する13秒04をマーク。さらに陸上の世界トップ選手が集うダイヤモンドリーグのローザンヌ大会では日本男子史上初の優勝、またロンドン大会では、東京五輪の金メダリストを抑え2位にはいるなど絶好調だ。
世界陸上2大会(2001エドモントン、2005年ヘルシンキ)で男子400mハードルの銅メダルに輝き、同種目の日本記録保持者・為末大さん(45)も「全然レベルが違う期待感」と太鼓判を押す。

Q:為末さんから見て泉谷選手の凄さは?
為末大さん:全部トータルですごい選手で、足も速くて幅跳びも8mくらい跳んでいて・・・。私の前に日本記録を持っていた山崎一彦さんがコーチで、ハードル技術も普通は110mハードルってハードルをまたぐみたいに超えたがるんですけど、それをポーンと前に飛び出すように跳んでいるので、前ハードルをジャンプして跳んでいっているみたいな印象の選手です。全然低身長(175cm)なことを感じさせない。一番際立って凄いのは、最後の6台目くらいから逆にまくったりする時があるんですよ。それがやっぱり、今まで日本の選手で見たことないですね。
Q:どういう特徴がそうさせるんですか?
為末さん:(普通は)走りながらちょっとずつ崩れていくんですよ。それを何とかリズムでごまかしながら行くみたいなパターンが多くて・・・それが「崩れないままゴールまで行けたらいいね」っていうのが大体日本のよく目標にすることなんですけど、全然崩れなくて他の国の選手よりもリズムがむしろ取れていくんだろうと思うんですね。だから、なんか凄い速いビートでドラムをしていて、どんどんみんながついていけなくて音がずれ始めるのが普通なんですけど。それがむしろ楽しくなってきて、自分がレース全体のリズムをリードしていくみたいなことをやっている感じなんですよね。そんなことをやれた選手が、いままでにないですね。
Q:海外の選手から比較すると身長が低いのは不利?
為末さん:不利ですね。180cmくらいが110mハードルのメダリストの平均身長で、彼より7、8㎝高いくらいじゃないかと思うんですけど。ハードルの“背が低い”って179とかっていう感じなんで・・・彼は175cmくらいですかね。相当小さいと思いますね。
Q:さっきおっしゃられた、リズムみたいなのでカバーしているということですか?
為末さん:普通はびよーんっと跳んで間延びして追いついていけなくなるって感じなんですけど、多分それが幅跳びの能力で見た感じバネがすごいので、それが何故かすっごい勢いでポーンと飛び出して着地して走れるっていう・・・しかもそれが10台続いていくどころか、後半に向けてむしろ乗ってくるように見えているのが凄いなと思います。出来ないですね。

Q:幅跳びでいうと専門種目ではないじゃないですか。ハードルがメインだとしたら8m跳ぶということはどういう感覚になるんですか?
為末さん:昔だったら幅跳びで日本代表になってますかね。だから幅跳びでも代表クラスにバネがあって、多分走る方にフォーカスしても10秒とか出るんじゃないかと思うんですよ。だからその両方をくっつけて、まあなんか昔でいうドラゴンボールでしたっけ、くっつけてフュージョンってあったじゃないですか(笑)
Q:(笑)
為末さん:幅跳びの日本代表クラスと100mの代表クラスをフュージョンしたらあぁいう人が出てきたっていう感じじゃないのかなと思うんですよね。大体どっちかだったりするので。かつそれに技術がなんかついてきちゃったっていう選手ですね。ハードルだけじゃなくて色んな世界の速い選手って時々出てくるんですけど、世界の揉め合う場所にポコンと置くと上手くやれないっていうのが結構多いんですよね。8割ぐらいはそんな感じだと思うんですけど、でも彼は今回世界最高峰のダイヤモンドリーグで、1位取って2位取ってるんで、そっち側もいけちゃってるっていう・・・今までの凄いぞ凄いぞっていう期待感とちょっとまた全然レベルが違う期待感がありますね。
Q:この110mハードル、ダイヤモンドリーグで優勝するっていうのはどのくらい凄いことなんですか?
為末さん:どのくらい凄いかっていうと・・・僕が3番なんですけど、3番になっても凄かったんですよ。でも勝てなかったですね。世界一になったことのある人に勝たない限りは勝てないっていう感じの世界なので。あと、やっぱりあのレベルの人たちと横に向かって走ると相手のリズムがこっちに浸食してくる感じなんですよね。イメージですけどボクシングの打ち合いをして、相手の手の回転が早くなってどんどん押されていくみたいな気分になるんですよ。横で走ると特に。それに撃ち負けないまま自分のリズムに引き込んでいくっていうことが出来ない限りは、記録は出るんですけど、横に並んだ時に力が出ないんですけど・・・そういうのは結構飄々とできていて、色々と条件が揃っちゃったから、今回は楽しみだなという感じです。
Q:世界陸上でいうと未だに決勝に日本人選手は行ってないですけど、どのくらいの期待を今されていますか?
為末さん:僕は結構金、銀があり得るんじゃないかと思ってて・・・そしたら相当凄いですよね。本当に今までのレースを見ると本当にやっちゃいそうな感じはしますよね。
【男子110mハードル】
■予選
20日 午後8時05分~
■準決勝
22日 午前3時05分~
■決勝
22日 午前4時40分~
(日本人選手の出場予定)
泉谷駿介、高山峻野、横地大雅