「はよ死にたいですわ」死を願いすらする冨二さん(93)
(小澤さん)
「あら、サツ子さん」
(高齢女性・サツ子さん)
「あらら、来てくれたん」

この家は、夫婦2人暮らし。子どもたちは、島を出ていきました。
(小澤さん)
「サツ子さん、お薬ぜんぶ空っぽかな?」
(サツ子さん)
「全部空やね」
(小澤さん)
「冨二さん、胸の痛みはどうですか?」
(高齢男性・冨二さん)
「痛みは、ないですわ」

(小澤さん)
「そしたら冨二さん、自己紹介してあげてくださいな」
(冨二さん)
「三好冨二の、今年93歳です。はよ死にたいですわ」
(小澤さん)
「はよ死にたいんですか」
(冨二さん)
「えぇ、死にたいです。コローッと死んだら、人間はいっぺん死んだら2へんも死なんからな」
(小澤さん)
「もう思い残すことがないんですか?」
(冨二さん)
「ないんです、えぇ」
93歳の冨二さん、衰弱が進んでいました。妻のサツ子さんも88歳。うたさんが、普段から気にかけている夫婦です。
(冨二さん)
「嬉しい楽しい、いいことありますわ。あんたに惚れますわ」
(小澤さん)
「昔はね、いろいろ盆踊りもしたりしてね」
(冨二さん)
「自分の好きな人と踊ってたら、化粧品の匂いがぴゅ~んとしてきてね、楽しかったですよ~」
(小澤さん)
「冨二さん、盆踊りの音頭、歌ってあげてくださいな」
冨二さんが、盆踊りの音頭を唄い始めました。

(冨二さん)「花のお江戸のその傍らに~♪」
(小澤さん)「よ~いよい」
すると、妻のサツ子さんが、突然踊り始めました。

(小澤さん)
「冨二さん、サツ子さんに言うとくことはないですか?」
(冨二さん)
「はーい、うちのおかあちゃん、とっても素敵なお母ちゃんですよ~。私は惚れて嫁にもろたんです。さっちゃん、さっちゃん言うて、豊島一のべっぴんじゃ言うて」
(サツ子さん)
「もう、何を言よーるんじゃ」
(小澤さん)
「もう次、検査と入院言うんは嫌ですか?」
(冨二さん)
「もう嫌じゃな、でもなかなかまだ死にそうにないなぁ」
(小澤さん)
「冨二さん?!もうちょっと頑張りましょうか」
(冨二さん)
「はい、もっと頑張りますわ。嬉しい楽しい良いことがあるぞ、って笑ようたらいい」

「年取るといいことがない」うたさんが胸に抱く思い
冨二さん、サツ子さんの家を後にします。うたさんと夫婦2人の和やかな時間。それでも、うたさんは複雑な思いを胸に抱いていました。
(小澤さん)
「思ったより元気で良かったです、本当に。冨二さん、ちょっと検査の結果が悪くて、もう検査一つ、入院一つも全部嫌がられて。『もうあと死にたいだけやから、何もせんでいい』と」
「『年取るといいことがない』ということを言われると、返す言葉に詰まるんですよね」

やがて来る死を待ち、願いすらする冨二さん。うたさんは、そんなお年寄りと日々向き合っているのです。