■「公明を説得して来い」攻勢強める安倍元総理
関係者によると、国家安全保障局と財務省の幹部が安倍氏のもとを訪れ、骨太の方針の修正案を示した。NATO諸国が国防予算について対GDP比2%以上の目標を掲げている事実は、当初の案では脚注に記されていたが、これが本文へと移されている案だった。安倍氏が主張する「GDP比2%」の防衛費増額目標により配慮した案だった。
しかし、安倍氏は納得しない。
防衛力の強化について期限を区切り「5年以内」と明記しなければ政府案は了承できないと突き返したのだという。公明党が難色を示していることを財務省が伝えると、安倍氏は公明党を説得しに行くよう指示を飛ばした。
■防衛力強化「5年以内」 防衛費に関する記述も追加
次の日の6月3日。自民党で開かれた2度目の会合。政府が示した修正案では、本文中で、NATO諸国が国防予算についてGDP比2%以上を達成するという目標を掲げていることが紹介された。さらに、ウクライナ情勢や北朝鮮への対応などについての記述を挟んだ後に「前述の情勢認識を踏まえ、防衛力を5年以内に抜本的に強化する」との文言が追加され、安倍氏が要求した通り「5年以内」という期限も盛り込まれたのだ。
安倍氏はこの修正案について「これで防衛費のGDP比2%目標を5年以内に達成すると読めるだろう。この目標を達成すれば、あとは分母となるGDPを増やしていけばいいだけだ」と周囲に語ったという。
「骨太の方針」は6月7日にも閣議決定される見通しだ。
■安倍元総理「今しかない」 防衛めぐる発信強化のワケは?
「世論がここまで防衛に関心を持つ機会は、もう2度とないだろうから」
防衛についての発信を強化する安倍氏はその理由について周囲にこう漏らしているという。
ヨーロッパではロシアによるウクライナ侵攻が続き、NATO諸国はロシアに対する警戒を強めている。アジアでは中国の軍事力拡大に注目が集まり、中国への対応が5月の日米首脳会談でも大きなテーマとなった。
これまで世論の安全保障に対する関心は低く、選挙でも争点となることはほとんどなかった。しかし、最近ではこうした国際情勢を背景に関心が高まり、世論調査でも防衛費の増額に「賛成」と答えた人が50%を超えた(5月 JNN世論調査)。
参議院選挙が終わると、今後の国の安全保障政策の方向性を示す「国家安全保障戦略」をはじめ安全保障関連の3文書の策定作業が本格化する。防衛費をめぐる議論がどのように展開するのか引き続き注目だ。