■政府の方針に安倍元総理が注文「防衛費倍増示すのは当然」

自民党の安倍晋三元総理が5月26日、政府に新たな注文を突きつけた。

自民党・安倍晋三元総理
「『骨太の方針』においては国民の生命、財産、領土、領海、領空を守り抜くという覚悟を示す。GDP比2%の防衛費を確保していくということは当然のことなんだろうと。この国家意思を『骨太の方針』に記していくことが求められている」

安倍氏は自らが率いる派閥の会合で、GDP比1%程度で推移している防衛費について「倍増させるのは当然」としたうえで、政府が6月にまとめる経済財政運営の指針、いわゆる「骨太の方針」に盛り込むべきだとする考えを示したのだ。

自民党は4月に岸田総理に申し入れた提言で、防衛費について「GDP比2%以上も念頭に、5年以内に必要な水準の達成を目指す」ことを求めていた。安倍氏はその提言の内容を政府の「骨太の方針」に反映させることで、翌年度以降の予算編成での防衛費の増額を確実なものとすることを狙ったのである。骨太の方針をめぐる安倍氏と政府との暗闘が火ぶたを切った。

■「安倍元総理には許してもらおう」防衛費の数値目標なしの政府原案

安倍元総理の発言の5日後、5月31日。総理官邸での経済財政諮問会議で政府は「骨太の方針」の原案を示した。 原案では「安全保障環境は一層厳しさを増している」としたうえで「防衛力を抜本的に強化する」と明記された。

安倍氏が言及していたGDP比2%という防衛費の増額目標については、脚注でNATO諸国がGDP比2%以上を達成するという目標を掲げていることに触れ、安倍氏への一定の配慮を示した。ただ、日本の防衛費の数値目標を明記することはしなかった

防衛費をめぐっては公明党の山口代表が「議論する中で積み上げられていくものだ」と述べるなど、与党内には数値目標を掲げることに慎重な意見もある。
財務省も防衛費の増額にあたっては、どんな防衛力を整備するのか、そして裏付けとなる財源をどうするのかを「一体的に検討していくことが重要」(鈴木財務大臣)との立場で、防衛費の数値目標ありきの議論には否定的な立場だ。政府の原案は安倍氏らの主張と、公明党や財務省側の主張を踏まえたうえでの折衷案だった。

この原案について、自民党の関係者は「脚注にNATO諸国の事例が書いてある。安倍氏にはこれで許してもらおうということだ」と解説。丸く収まるとの見方を示していた。

しかし、翌日の6月1日、自民党で開かれた政府の原案を議論する会合では異論が噴出した。

■自民党 原案を了承せず…高市政調会長が異論

自民党側の了承をとろうとする政府に対して、自民党の議員たちからは防衛費をGDP比2%以上に倍増するとの目標を盛り込むよう政府に求める意見が相次いだのだ。3時間以上にわたった会合の最後には、会合の仕切り役である高市政調会長までもが、GDP比2%目標を盛り込むべきとの立場を示し、原案を政府に突き返す形となった。

その翌日、6月2日、安倍氏自身も派閥の会合で政府の原案への不快感をあらわにした。

自民党・安倍晋三元総理
「NATO諸国の防衛費目標=GDP比2%以上を念頭に、5年以内に防衛力の抜本的な強化のために必要な予算水準を達成する。このラインは本来であれば骨太に書くべきではないのかなと。しっかりとした目安と期限を明示して国家意思を示すべきだと思うわけであります」

安倍氏は防衛費の倍増目標を盛り込んだうえで、「5年以内」と期限を区切るべきだとする考えを改めて強調した。

自民党の国防族議員は「骨太の方針は政府の文書。公明党との調整も必要なのにどうするのか」と語り、不安を隠せなかった。

この日の午後、安倍氏は自ら調整に乗り出した。